【毎日更新】line walker ゲームプレイ日記

毎日欠かさず更新して約11年目・・・・・。FGOとホロライブ・ホロスターズ中心のブログです。

モーレツ宇宙海賊第十四話「茉莉香、募集する」






 宇宙には歴史という物は無い。過去、現在、未来、それは人類による主観的な物であり、特定の時間軸に縛られた“点”のような存在でしかないのだ。

 しかし人類が、その営みの拠点を絶えず宇宙(そと)へと求めるのであれば、“点”は“線”となり、人の歴史は宇宙に咲き誇る大輪の花へと咲き誇るのかもしれない。


「まだ、わかりません。」


 終わりじゃなくて始まり。人間として、自分として、再び歩み始める瞬間。






激烈、炸裂、強烈、破裂、爆裂、モーレツ宇宙海賊セカンドシーズン。茉莉香の新たな試練が始まる。




第14話「茉莉香、募集する。」




「ふぁ〜・・・疲れたぁ・・・。」


 一日の疲れを目一杯吐き出しながら、船長席に座り込む茉莉香。


茉莉香「やっぱり人前出ると緊張するなぁ・・・。」

ケイン「やる事は同じでも、お客さんは毎回違いますからねぇ」


 毎度お馴染み海賊営業。景気良く客船を襲撃して金品強奪。時には模擬演習、時には剣戟付き、可能な限り安全にお客様に海賊稼業を演出する。それが宇宙海賊。それなりに様になってきた船長スタイルでも、やっぱり人前でわいわいやるのは疲れる様子。


茉莉香「ねぇ?今日ってまだ仕事あったよねぇ・・・?確か星系防衛軍所属の病院船に届け物だっけ?」

ミーサ「銀河帝国の生物研究所から預かった生態コンテナ。」


 もちろん、そんな花形な仕事だけでは海賊稼業はやっていけない。政府お抱えの正統海賊は、その実、表沙汰にはできない裏の仕事も回ってくる。ミーサの言う研究施設のコンテナの運搬等がそれである。



ミーサ「まぁ届けるだけだし、船長はもう帰っていいんじゃない?」

茉莉香「えー!本当!?」

百眼「学生の本分は勉強だしなぁ」

クーリエ「来週はちょっと忙しそうねえ。シュバルツヘルグの届け物と、豪華客船クイーンエスメラルダの海賊行為。体調万全でヨロシクね船長」

茉莉香「りょーかーい!じゃあ後は頼んだわよー!」


 海賊の船長だってまだ女子高校生。仕事も大事だけどやりたい事だっていっぱいある。


「「「「りょーかーい。」」」」


 ミーサが言うなり早速船長室で着替えをすませた茉莉香は、小型シャトルに乗り込んでそのまま海明星(うみのあけほし)へ降り立った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 残った仕事は、コンテナの運搬だけなので乗組員もみんなゆったりしていた。そんな時、弁天丸船内を歩いていたミーサは格納庫から不審な物音を聞きつけた。

 とりあえずハッチを開いて格納庫を確認する。外部からの侵入者の可能性を考え、手持ちの小型のピストルを引き金を引いて様子を伺うが・・・・。

 照明を落とした真っ暗な格納庫の中から、不気味に光る無数の光が・・・。




「――――!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



茉莉香「あれ?」

マミ「なに?どうかした?」


 一方、学校でのどかなランチタイムをマミと一緒に済ませていた茉莉香は、弁天丸から定時の連絡が入らない事に気づいた。


茉莉香「いつもならお昼前に弁天丸から連絡があるハズなんだけど・・・」



 海明星は銀河標準時間を惑星の時間としている。茉莉香は懐中時計を開いて文字盤が昼の時間を指しているのを改めて確認し、時計から浮かび上がった立体ディスプレイに「着信ありません」のメッセージを見た。


マミ「忙しいんじゃない?」

茉莉香「う〜ん、そんなに急な仕事は入ってなかったと思うけど・・・。何かあったのかな?」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



梨理香「まだ通信が無いのかい?」


 その後、学校が終わって家で待っていた母梨理香に、定時連絡が無い事を話す茉莉香。


茉莉香「うん・・・」

梨理香「おっかしいねぇ〜乗組員が船長の安否を気遣うためのもんなのに、相手方から連絡が無いなんてねぇ・・・。」

茉莉香「もしかして、弁天丸に何かあったのかなぁ・・・。」


 梨理香が淹れてくれたコーヒーに映る自分の顔と梨理香を交互に見つめながら茉莉香は心配そうに言う。

 不安だけが募る一方の茉莉香。そう言うやいなや、梨理香のポケットにしまってあった小型の電子端末が高い電子音を出して着信を知らせた。


梨理香「お?こっちに来たか・・・?もしもし?・・・あいよ。・・・うん。うん。ちょっと待ちな・・・。船長、緊急連絡だよ。」


 そう言いながら梨理香は、受話器を茉莉香に回した。


茉莉香「緊急?・・・もしもし?」

『あぁ・・・茉莉香?』

茉莉香「ミーサ!?どうしたのその声!」


 受話器の向こう側から聞こえてきた知っている声はえらく嗄れ声になっていて、まるで老婆のような声になっていた。


ミーサ『風邪・・・みたいなもの』

茉莉香「え?」

ミーサ『乗組員全員が隔離中・・・。今病院船の中。』

茉莉香「えぇ!?隔離ってどういう事!」

ミーサ『ネコザルの生態コンテナあったでしょ?いつの間にかタイマーで開いてたみたいで、あの中にいた5匹が風邪みたいな感染症にかかってたの。しかも、空気感染であっという間に広がる質の悪いヤツ・・・。』

茉莉香「えぇ〜!?」


 ミーサが格納庫で見たのはネコザルの群れであった。研究施設に届けるまで開く事の無いコンテナが手違いで勝手にタイマー式に開き、ミーサが開けたハッチを潜って船内へ。ブリッジから何からサルで溢れた船内は、ネコザルの持っていたウイルスも同時にバラまいてしまったのだ。



ミーサ『とりあえず、症状は熱と咳が主だから・・・ごほっごほ!・・・命に別状は無いって。茉莉香は、具合悪くない?』

ケイン『せんちょ〜・・・!大丈夫ですかぁ〜・・・!』

百眼『おれたちのような悪いおとなになるなよ〜・・・』

クーリエ『ひゃくめ・・・はつげんがいみふめい・・・』


茉莉香「と・・・とりあえず平気みたい。それで定時の通信無かったんだ・・・。」

ミーサ『ごめんなさいね・・・。検査に手間取ったりしてたから・・・。』

茉莉香「あ!次のお仕事は?」


 とりあえず全員の無事を知ってほっとした茉莉香だが、来週のスケジュールが忙しいとクーリエが言っていたのを思い出した。


ミーサ『う〜ん・・・さすがに無理かなぁ・・・。弁天丸の消毒は終わってるし、病気自体は一週間で治るみたい。ただ、もともと怪しい目的に使おうとしてたウイルスらしくて、ワクチンが効くかどうかわからないらしいの。最低でも完治が確認されるまで2週間は学部と接触禁止ですって。』

茉莉香「2週間!?そんなに!?」

ミーサ『でね、悪いんだけど保険会社に連絡しておいてくれる?』

茉莉香「え?」

ミーサ『船長なんだし、良い機会だから、そろそろ営業的な事も考えた方がいいと思って。』


 保険会社は海賊と民間や軍を相手に取り持つ中間管理の仕事を請け負っている。要は海賊に関する依頼は、保険会社を回って依頼されるのである。メインになる客船への海賊行為で金品強奪などに対する補償金を出したり、色々な裏の仕事を取り持っている海賊に取ってはなくてはならない存在である。


茉莉香「はぁ〜〜〜・・・・」

梨理香「トラブルみたいだねぇ」

茉莉香「ねぇ梨理香さん、ミーサが保険会社に連絡しろって言ってたんだけど・・・。」

梨理香「あのハロルドの野郎かい!全く・・・!ああ思い出したら腹が立ってきた!あっち!」


 保険会社と聞いて海賊時代を思い出したのか、急に普段茉莉香には見せない険しい顔つきになった母は、中空で宿敵の顔を思い出しながら、注いだばかりの熱いコーヒーを口に含んだ。


茉莉香「え?何かあったの?」

梨理香「ハロルド・ロイド保険組合のハロルドとは、犬猿の仲でね。お客のためにパフォーマンスを派手にしたくて機関銃を増やそうとすると、減価償却が・・・とか言うし、そのくせ保険料が高い!」

茉莉香「・・・?」


 どこか遠くを見ながら茉莉香に説明する梨理香。その様子を茉莉香は唖然として聞いていた。



梨理香「海賊船からもお客からも二重取りしてるヤクザな奴らだよ。まぁとはいえ海賊も荒事が多いし、保険が無けりゃ成り立たない商売なんだけどね。」



茉莉香「そうなんだ・・・。」

梨理香「ま、とにかく用心してかかるんだよ。相手は大人だ、交渉にも長けてる。利用されないように頭を使いな。」

茉莉香「わ・・・わかった。」


 若干、というかかなり、その手の交渉は苦手なジャンルに入る茉莉香であったが、今は乗組員全員が倒れている時。腹をくくるしかない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 翌日。ヨット部では、グリュンヒルデ含む新入生4人のシュミレーション航海を始めていた。


リン「じゃあ動かしてみよう。操縦桿を握って」

「ねぇ?茉莉香何やってんの?」

「さぁ?部室で海賊の新しい仕事とか?」



 『こみ入ってますので立入禁止!!』

 の文字が通信装置があるブリーフィングルームの扉に貼り付けられていた。仕事の話をするにも、弁天丸には誰もいないので、仕方なく部室の通信装置を貸し切った茉莉香は、梨理香の忠告を心に留めて保険会社に接続した。


茉莉香「は、はじめまして!!べ、弁天丸の船長、か加藤茉莉香です!」


 グリューエルのような貴族と話すのとはまた違った役所や公共機関に対する独特な緊張感を味わいつつ、カミカミで自己紹介する茉莉香。


ショウ『ハロルド・ロイド保険組合エージェントのショウだ』


 立体ディスプレイに出てきた相手の映像は、ボリュームのあるアフロを抱えて黄色のサングラスに緑のシャツ、無駄に整った顎鬚を蓄えた長身の男だった。


茉莉香「あれ?ハロルドさんじゃないんですか?」

ショウ『5年程前に担当が変わったんだ。ミーサから聞いてなかったのか?』

茉莉香「す、すみません。」


 そこまで失礼を言ったわけでもないのだが、こういう時は無駄に謙虚になってしまう。


ショウ『ムッハハ。そんなに固くならなくていい、とって喰うわけじゃねぇ。』

茉莉香「あぁ、はい。」

ショウ『確かにハロルドは気性が荒くて良くいろんな海賊と揉めていた。中でもブラスター・リリカとは中が悪くて、殴り合いの喧嘩をしたとか。』


 パンチの動き付きで母の昔を語るショウに若干引き気味に笑いながら茉莉香は相槌を打った。


ショウ『生憎だが、私は平和主義者でねぇ。できれば皆さんとはうまくやっていきたいと思ってるよぉ。』

茉莉香「はい・・・。宜しくお願いします。」

ショウ『では本題に入ろう。弁天丸の乗組員が隔離された事はこちらも掴んでいる。弁天丸の船体はどうしてる?』


 クイっとサングラスを上げて声のトーンを下げて営業モードに入るショウ。


茉莉香「ロックして自動運行モードです。乗組員達の隔離期間は、およそ2週間。弁天丸の届け物だったシュバルツベルグへの届け物とクイーンエスメラルダの海賊行為は、残念ながら断念せざるを得ません。」


ショウ『わかった。ではその2つについては手配しよう。だぁが問題はそれより後の事だ!』

茉莉香「え?」



 急に声を荒げるショウ。そして、不敵な笑みを浮かべながら話を続けた。


ショウ『隔離期間が2週間と聞いているが、ワクチンが効くかは未知数。合わせて病院側は確実な治験データを取りたがるから、最低なら一ヶ月は隔離されるだろう!』


茉莉香「一ヶ月!?そんな、営業妨害だわ!」


 びしっと茉莉香を指差すショウ。そして「チッチッチ」と指を左右に振る。


ショウ『いや。事態はもっと深刻だ。』

茉莉香「どういう事ですか?」

ショウ『仮に一ヶ月休めば、弁天丸の海賊免許が無効になる!!』

茉莉香「えええええええええ!!!!!!」


 今度は茉莉香が声を荒げて悲鳴をあげた。思わぬ耳を塞ぐショウ。もちろんディスプレイの向こう側で。


ショウ『とはいえ船長。君がその間に弁天丸に乗り込み、通常通り海賊行為を行えば、免許は更新される!』

茉莉香「なんだぁ・・・良かった・・・。ってどうやって一人で弁天丸を動かせって言うんですか〜〜〜!!!?」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「あ゛ぁ゛〜・・・。どーすればいいのー・・・。」


梨理香「コーヒー淹れたよ。」

茉莉香「ありがとう・・。あ、梨理香さん。祈るのと誘拐するのと人探し、どれが一番良いと思う?」

梨理香「はぁ?」


 とりあえず自分の部屋でショウと話した内容の思い返してため息をつく茉莉香。梨理香はそんな茉莉香の相談を思わず聞き返した。


茉莉香「実は・・・」




・・・・・・・・・・


ショウ『方策は3つ。ひとぉーつ!海賊免許の有効期間に乗組員が解放される事を祈る事!ふたぁーつ!期限に間に合わない場合は、病院船から乗組員を救出する。』


茉莉香「どっちもあまり現実的じゃないかも・・・。」


ショウ『そこで最後のひとつ。海賊乗組員をどこからか探す。』


茉莉香「え?探すってどうやって?」


ショウ『とぉにかく!一回だけ海賊業務ができればいい。どれを選ぶかは・・・せんちょー!!君次第だ!』


・・・・・・・・・・・・・・


 おちゃらけた様子でまるで楽しむように言っていたショウだったが、言っている事自体は正論だったし、おまけに事の重大さを知る事も出来た。



茉莉香「色々考えたんだけど、やっぱ人探しが一番良いのかなぁ・・・。」

梨理香「なるほどねぇ・・・」

茉莉香「腕利きの船乗りってどこで探せば良いと思う?やっぱり海上空港かなぁ・・・。」

梨理香「宇宙船乗りが地上にいると思うかい?昔っから船乗りは港にいるもんさ。」

茉莉香「みなと・・・」

梨理香「ここなら・・・そうだねえ・・・。中継ステーションさ」




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 中継ステーションは、海明星の静止衛星より高い所にある。行く手段は地上からの大型連絡船が一番なので、早速予約を取って中継ステーションに向かう茉莉香。しかし、出発までの待合時間でぽつんと空港のシートに座っているだけで周囲の目線が自分に向けられているのに気づいた。

 回りでひそひそ何を話しているのか解らない気まずい雰囲気に耐えかねかけた時、ようやく出発準備のアナウンスが流れて茉莉香は立ち上がった。


『本日は新奥浜空港中継ステーション行き、シャトル714便への搭乗有難う御座います。先ほど、管制塔より許可がでましたので、本機はまもなく滑走路ににて発進します。シートベルトをお締めになり、しばらくお待ちください。』


 船長になってからミーサやケインと行動する事も多かったのはつい最近からだが、一人で何かする時間もそれなりに長い。それでも、なかなか一人で宇宙まで行く用事も無いので、無意識に顔を強ばらせながら、茉莉香は中継ステーションのマップを睨みつけていた。


「お隣、宜しいですか?」


 そんな茉莉香の横で聞きなれた声がした。黒いコートと同じ色の帽子、さらにサングラスまでかけている小さな少女は、帽子を取って茉莉香に社交的な笑顔で微笑んだ。



茉莉香「グ・・・グリューエル!?もしかして尾行(つけて)きた?」

グリューエル「えぇ。」

茉莉香「なんでまた・・・。」


 セレニティのお家騒動も落ち着いて、普通の学生として暮らし始めた彼女だったが、どうやら密航癖はなかなか治らないらしい。


グリューエル「昨日、長時間部室の通信機を利用していた事、合わせてバイトにも来なかったとマミさんから伺いましたので、弁天丸に何か起こっているんじゃないかと。」

茉莉香「はー・・・。それにしたって・・・。」

グリューエル「お友達を助けたいと思うのに、理由なんているのですか?」

茉莉香「え」

グリューエル「わたくしは、王家の人間である前に、グリューエルとして考えてここに来たのです。茉莉香さんのお役に立ちたいと・・・。ご迷惑ですか・・・?」

茉莉香「ありがとう。でもプリンセスなんだから、そのへんは自覚しておいてよね。」

グリューエル「もちろんです。」



 そうこうしている内にシャトルは小さな衝撃を前から後ろへ流しながら、勢いよく宇宙へと飛び上がっていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





ミーサ「茉莉香、どうしてるかしら?」


 そんな茉莉香の事も知らずにのんびりと時間を過ごす弁天丸のクルー達。


ケイン「久しぶりに普通の高校生を満喫してるんじゃない?」


 一人でチェスの駒を動かしながらケインがあくびついでに答えた。


クーリエ「お休み過ぎて船長だって事、忘れないといいけどねえ。」

百眼「そりゃあ、俺たちも同じだろう・・・あ。」


 戦艦のプラモデルを組み立ながら百眼が言った。言いながら力を入れすぎたのか、船底の部分からバラっと外れて崩れてしまった。

ルカ「は!・・・見えない・・・。」


 タロットを広げてルカが呟いた。見えないのかよ!

 そして、ずっと思っていたんだがサイボーグのシュニッツァーまで隔離されてるのはなぜだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



グリューエル「これが中継ステーションですか・・・初めて降りました」


 多くの商船や貨物船、怪しげな船も入り混じって行き来する、さながら宇宙のオアシスである。


茉莉香「まぁ、一国の王妃が積極的に来るところじゃないわよねぇ・・・。」


 シャトルから出たら出たで、またも周囲の目線が向けられているのに気づいた茉莉香。ところどころ見えないように小さく指差していたり、お互いに顔を寄せてひそひそ話している。


茉莉香「ほら、みんなグリューエルに注目してる。」

グリューエル「違います。茉莉香さんですよ。わたくしは変装してますし。」

茉莉香「え?」


 しばらくすると、「やっぱりキャプテン・マリカだ!」「本当に女子高生なんだ」とかそんなフレーズが耳に入ってきたので、周囲の人目を避けるようにグリューエルの手を引いて小走りでその場を抜けた。


グリューエル「ご自身の知名度を自覚なさった方が宜しいかもしれません。」


 自分の言った事が的を獲ていて誇らしげなのか、なぜか楽しそうにグリューエルは言った。


茉莉香「うー・・・。」


 グリューエルの言っている事は案外当たっているようで、周囲が茉莉香を茶化す以上に世間は自分を知っている事をここにきて茉莉香は本当の意味で実感した。


グリューエル「乗組員を探す前に、変装が必要ですね。」

茉莉香「へ、変装?」

グリューエル「お任せ下さい。」


 いつもよりノリノリで話すお姫様に若干気圧されながら、茉莉香はグリューエルと共に一度も入った事の無いような高級服店に入った。






・・・・・・・・・・・・・・


グリューエル「2人分のスーツだと、このぐらいかしら?」


 早速グリューエルの提案で、変装用の服を調達した二人。会計時にセレニティの紋章が刻まれた小切手に0を7つも並べてグリューエルは差し出した。


店員「え、こんなに!このぐらいで十分ですよ。」

グリューエル「あらお安い・・・。」

茉莉香「グ・・・グリューエルううう・・・。なんか・・・落ち着かないんだけど・・・。」


 ワインレッドに揃えたオフィス用のレディーススーツにパールのネックレスとサングラスまで付けた姿で、恥ずかしそうに足を閉じたまま茉莉香は試着室から出てきた。



グリューエル「よくお似合いですよ。ダウンタウンの船員事務所に行っても、茉莉香さんだってバレません。」


茉莉香「なんでこんなに丈が短いのー・・・。ズボンでも良かったんじゃ・・・。」


 普段より5割増にスースーする又下を隠すようにスカートを下に引っ張って茉莉香は抗議する。しかし、その抗議はグリューエルの本気の視線にあっさり蹴落とされてしまう。


グリューエル「弁天丸のキャプテン・マリカのパンツスーツなんて、沽券(こけん:商売業)に関わります!」

茉莉香「なんでよ!!」


 DVD&Blu-ray買ってくだサーイ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 早速二人は、ステーションの港に位置する船員事務所で、船乗りのデータを見てみる事にした。


茉莉香「まず船員事務所のデータバンクで人材を探さないとねー。カテゴリー?の宇宙船を動かせて、最低三年以上のこの条件を満たすのは・・・う」

グリューエル「多すぎますねぇ」


 検索結果に表示された人数は36000件。


茉莉香「条件を絞ろう。えっとー、実務5年以上。帝国の一級航海士の免許を持っている・・・。」


 再度キーボードを操作して入力する。検索条件の項目をどんどん埋めていき、再度検索をかけると、今度は「13000件」とディスプレイに表示される。


茉莉香「うぁ・・・まだ先は長そう・・・。」

グリューエル「あの、茉莉香さん。弁天丸の船長として、乗組員の何を重視しますか?」

茉莉香「何をって・・・うーん。考えた事無かった・・・。私が船長になった時は、もうみんながいたし。」

グリューエル「この機会に考えてみるといいかもしれませんよ。」

茉莉香「うーん・・・。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 シャトルが発着して旅先の乗り継ぎやショッピング目的で来る表の階層からだいぶ離れて、船乗りがあちらこちらを行き来する裏街に出る。ネオンが通りを彩って夜の繁華街を連想させる街をグリューエルを連れて茉莉香は歩いていた。

 これどこかにキャサリン小隊長とか潜んでいるんだろうか・・・。



茉莉香「重要視する事かぁ・・・。なんだかんだで弁天丸って仕事しやすいんだよねぇ・・・なんでだろ?」

グリューエル「弁天丸の皆さんは、どこが優れていると思いますか?」

茉莉香「うーん・・・やっぱり技術かなぁ・・・。後はなんだろ・・・人柄とか?」

グリューエル「なるほど。」

茉莉香「とはいえー、あたしに船乗りを見る目なんて無いのよねー・・・。というわけでー、頼りにしてるわよー☆」


 目配せしながら、グリューエルの前で両手を合わせて「お願いします」とばかりに笑う茉莉香。


グリューエル「え?わ、わたくし、宇宙船の事については全くの素人ですよ!」

茉莉香「だぁーいじょうぶ!期待してるのは人を見る目だから!いろんな人に合ってるでしょ?」

グリューエル「はぁ・・・。お役に立てれば・・・。」

茉莉香「よーし!足使ってさがすわよー!!」



 しかし、港にいる船乗りとあって筋骨隆々な野郎が多い。いざ話を持ち出してみても皆揃って「NO」と断られてしまう。ぱっと見ただけじゃ人柄なんてわからないし、結局船乗り探しは一人も見つけられずにいた。



グリューエル「なかなか見つかりませんねぇ・・・」

茉莉香「考えてみればさー、港にいるのは仕事のある船乗りばっかりなんだよねー。」

グリューエル「そうですよねー・・・。」


 とりあえず立ち寄った(たぶん未成年でも入れる)バーで、テーブルに浮かんだタッチ式のディスプレイを見てメニューを流しながら二人は半分諦め気味に愚痴をこぼしていた。


グリューエル「まぁ!」

茉莉香「これがいいの?」


 流れていくミックスドリンクのメニューのひとつにグリューエルは一瞬目を輝かせた。淡い赤や蒼色の綺麗なシェイクが彩る中、しかしグリューエルの目に泊まったのは緑と青と黒が混ざった毒々しい不気味な色合いのシェイクだった。


グリューエル「な・・・何を言うのです、わ、わたくしがこのような下品な色合いのシェイクなど」

茉莉香「気になってるんでしょ〜」

グリューエル「う・・・・。」

茉莉香「こういうところのジャンクドリンクは色々と危険だよって梨理香さんが言ってたよ〜。」

グリューエル「・・・・我慢します。」

茉莉香「じゃあ、これ2つっと。」


 茉莉香は定番の飲み物を2つ分タッチしてオーダーを取る。


茉莉香「贅沢言ってられないんだけど、一緒に船に乗る人材だしなぁ・・・。みんなどうしてるのかなぁ・・・」




「姉ちゃんたち、すぐそこで宇宙船乗りを探してるって聞いたんだが、本当かい?」


 そこにいつの間に現れたのか、小脇に男2人従えた筋骨隆々で上着はタンクトップ1枚の男がそこに立っていた。他の船乗りより一回り大きく威圧した声もあって、茉莉香の横にいたグリューエルは縮みこんでしまった。


茉莉香「え・・・えぇ・・・。」

「ほぉ?運がいいねぇ、お嬢さん。」

「ちょうどここに宇宙船を動かし慣れてる男が揃ってるぜぇ。安くしとくから、まとめて雇ってくれねぇか?」


茉莉香「あらぁ?どんな仕事か聞かずに売り込んで来るほど仕事に不自由しているようには見えませんが?」


 茉莉香もこうなる事は考えていなかったわけではない。野郎に絡まれた時の梨理香仕込みの威圧返しと頭の片隅で用意していた撃退マニュアルを活用して言葉を返す。


「説明がいるのかい?宇宙じゃあ技術さえありゃあ、細けぇ事は気にしないんだがなぁ・・・」


茉莉香「えぇ、もちろん気にしませんよ。でも確かな実力が無いと困ります。差し支えなければ、船長さんがどんな船に乗っているか教えてください。」


 ビジネスウーマンの要領で、サングラスをカチャリと上げて茉莉香は言った。するとその言葉に反応して男の様子が変わった。


「俺っちが船長だとなぜわかった?」


茉莉香「貫禄だと思います・・・。なぁんとなくそう見えただけですが?」


 適当に言ってしまったが当たっていたらしい。後には引けないので無駄に強がって対抗してみる。


「ふふふふ、はっはっはっはっは!!!こりゃあいい!!噂通りのたまだな!」


 なぜか突然笑い出す男の様子に戸惑う茉莉香。グリューエルに視線を送るが彼女もお手上げのようで同じ目を茉莉香に投げ返す。



「オヤジ!もうそのくらいにして。」


 すると今度はバーの奥から聞きなれた声が。おおよそここには似つかわしくない女子高校生の制服。その持ち主は・・・。


茉莉香「チアキちゃん!?・・・って事は・・・。」

ケンジョー「海賊船バルバルーサの船長、ケンジョー・クリハラです」


茉莉香&グリューエル「「えええぇぇぇ!!?」」



 あまりの驚きに椅子から転げ落ちる二人。先ほどの豪快な様子と打って変わって紳士的に頭を下げて自己紹介してきた男こそ、チアキの実の父であり、海賊船バルバルーサの船長であった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「これがバルバルーサかー・・・。弁天丸と同じぐらい古いんですねー。」

ケンジョー「ま、色々改造はしてるがね。最新式にすると、船乗りの勘ってやつが鈍るからなー」

茉莉香「うちのみんなもそう言います」


 クリハラ親子に引き連れられて裏街から、バルバルーサが格納してあるポートへ移動した茉莉香とグリューエル。


チアキ「何和んでるのよ。あなた弁天丸の乗組員探してるんでしょ?」

茉莉香「え?どうしてそれを?」

ケンジョー「同じ保険会社だからなぁ・・・。」

グリューエル「なるほど。筒抜けなんですね」

チアキ「今度のクイーンエスメラルダの海賊行為も、うちが代わりに請け負うのよ」

茉莉香「え゛!そうなの!?・・・すみません、宜しくお願いします。」

ケンジョー「まあ困った時はお互い様よ!」

チアキ「それで見つかったの?」

茉莉香「ぜんぜーん。声かけても断られちゃって・・・。」

ケンジョー「そりゃそうだろうな。」

グリューエル「どうしてですか?」

ケンジョー「俺っちがそこらじゅうの船長に、弁天丸の船長が声かけてきても応じるなって睨みきかせて来たからなぁ・・・。」

茉莉香「ふぇ?だってあたし変装してたのに・・・。」

チアキ「バレバレよ。」

グリューエル「完璧な変装だと思ったのですが・・・。」


 残念そうに落胆するグリューエル。


茉莉香「でも何でそんないじわるをー?」

チアキ「意地悪じゃないわ。どこの馬の骨かもわからない奴らが弁天丸に乗る事になったら、それこそ大変でしょ?」

茉莉香「だからこうやって直接乗組員を探しに来たんじゃない。」

チアキ「でも見つけられなかった。」

茉莉香「だぁって!そもそも海賊なんてどんな基準で選べばいいか、見当がつかないし・・・。」

グリューエル「わたくしもお役に立てなくて・・・。」



 茉莉香と一緒にしょぼんとするグリューエル。その横で自分の船を見つめたままケンジョーが茉莉香達に言った。


ケンジョー「乗組員を選ぶ基準は色々ある。技術のあるやつ、腕力、性格、船長によってバラバラだ。それで船は個性が出る・・・。」





「加藤船長。あなたが乗組員に一番求めるモノはなんですか?」




茉莉香「技術とか性格とか・・・色々ありますけど、それよりも・・・“信頼”できるかどうか!」



 百眼、ケイン、ルカ、三代目、クーリエ、ミーサ。みんなの顔を浮かべながら茉莉香は思った事を口にした。まだ船長になって間もない自分を全力で支えてくれる。だからこそ、自分もみんなのためにしっかり船長としてやっていきたい。それが、乗組員と船長の絆であり、信頼。


「かな。」


チアキ「ふー・・・。昨日今日会う人間に信頼を求めるなんて無理よ。」

茉莉香「うう・・・」

チアキ「よく考えてみれば・・・自分の回り。」

茉莉香「え?」

チアキ「宇宙船を動かせる信頼できる人間がたくさんいるでしょ?」

グリューエル「あぁなるほど!」


 チアキの言葉に手のひらに拳をぽんと叩いて納得した様子のグリューエル。


茉莉香「え・・・?えぇ?」

チアキ「にぶいわねぇ・・・『あ゛ぁ〜らよ〜おっとぉ〜』」


 チアキの拳が聞いた演歌のようなフレーズは、先日部活の新歓で歌ったヨット部伝統の部歌。



「―――!・・・まさか・・・。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



リリィ「聞いたよ茉莉香!弁天丸の人たち大変なんだって!?」

ウルスラ「水臭いなぁ・・もう!早く言ってくれれば良かったのに〜!」


 普段より5割増でノリノリに茉莉香の方に肘をついてぐいぐい揺らすウルスラ


真希「みんなで頑張ろう!ねぇ?」

ウルスラ「うんうん!」

茉莉香「あっはっはっは・・・。」



グリューエル「さすがチアキ様。本当に色々と手回しが早いですわね。」

チアキ「べつn」「いずれにせよ、また一緒にいられるのは嬉しい限りです。」


リン「ようし!それじゃあ今度の練習航海は弁天丸で海賊業だ!いいな!」




「「「「「「「「はーーい!!!!」」」」」」」」



茉莉香「だ・・・大丈夫かなぁ・・・・。はぁー」



 少女の行く末は前途多難。

 信頼(?)できる乗組員を引き連れて新たな舵を切る弁天丸。そのお話は、また次回。





次回「密航出航大跳躍」







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そしてまた一週間が遠い・・・。