【毎日更新】line walker ゲームプレイ日記

毎日欠かさず更新して約11年目・・・・・。FGOとホロライブ・ホロスターズ中心のブログです。

モーレツ宇宙海賊第二十話「茉莉香(せんちょう)、波に乗る」








 よっと。かつて海原のものであったそれは、この時代においては「太陽風」や「星間物質」を受けて空はおろか、宇宙を翔けるものへと進化している。そして、そのヨットを駆る人々もまた、あらゆる可能性を求めて、大きく飛翔していく。







 激烈、炸裂、強烈、破裂、爆裂、モーレツ宇宙海賊第二十話「茉莉香(せんちょう)、波に乗る」



 宇宙船は常に清潔であれ。
 密航航海を終えた白鳳女学院ヨット部の次の活動は、オデット二世の大掃除という二日がかりの作業を取り行なっていた。オデット二世を年中停泊させている中継ステーションの専用ドッグにある倉庫でアイが見つけたのは、一人乗り用の軽量飛行船であるディンギーと呼ばれる機体であった。アイの進言から中継ステーションに長く閉まっていたディンギーを白鳳女学院まで運び、無事一息ついたところから今回の物語は始まる。









アイ「私、出たいです!」

「え?」


 普段は小声でしゃべる事が多いアイ・ホシミヤの声が、ヨット部部室の隅々に響き、部員たちの視線を一気に集中させた。


茉莉香「なになに?廊下まで聞こえてきたよー」


 ちょうど授業を終えた加藤茉莉香が、部室のドアを開く。


アイ「す、すみませんっ」

茉莉香「ん?どうしたの?」


 茉莉香は部室の真ん中でアイを囲んでいるグループに加わった。中心で原田真希が端末を広げて広告記事みたいなものを表示させている。


真希「これこれ。」

茉莉香「“第19回ネビュラカップ”?って・・・」


 広告の正体は、ディンギーのシルエットと大会のエンブレムを背景にした大会開催通知であった。


茉莉香「いいじゃない!出場しようよ!この間ディンギーも出てきたし。楽しそうじゃない」



 話の内容を察した茉莉香は、自分の意見を出す。ディンギー自身はこの前倉庫から引っ張り出してきたばかりだが、白鳳女学院ヨット部には部活動の備品としてはあまりにも贅沢な最高級のディンギーのシミュレーション設備があり、ヨット部に入部すると部員はまずそこでヨットのなんたるかを鍛えられる。オデット二世などの本格的な練習航海は最近頻繁に行うようになったが、宇宙船の航行は船舶免許を持った人間が必要なため、顧問すら不在だった以前までの部活動は、ディンギーのシミュレーションが部活動のメインであった。



アイ「ですよね!ですよね!私、前から出たいって思ってたんです!」


 いつになくアイがはしゃいでいる。ヨット部入部当初から、アイがディンギーの大会で優勝経験を持っていた事は既に部員の中で知らない人はいない。茉莉香が話に乗ってきた事もあり、部室内で思い思いにしゃべっていた部員も全員話に加わる。


茉莉香「あ、でもそれって開催はいつ?」

真希「2週間後だけど、どしたの?」

茉莉香「ほら、弁天丸のお仕事と重なっちゃうとさぁ・・・。」

真希「あー。茉莉香はそれがあったかー。」



 茉莉香自身、海賊稼業と学業の両立はいっぱいいっぱいのところである。その上部活動までするとなると、当然予定が重なる事も多々ある。とりあえず船長として茉莉香は海賊稼業を優先しなければならない。



リン「出場するのはいんだけどさぁ・・・」

グリューエル「何か問題でもございますの?」


 いつの間にか隣にいた部長リン・ランブレッタが腕組みしつつ言う。


リン「実際にディンギーに乗った事ある人、挙手」


アイ「はい!」


 景気良く手を上げたアイだが、リン自身も腕を組んだまま、他の部員も手を動かす事はなかった。


エイプリル「あはは。」

ウルスラ「シミュレータは散々やってるんだけどねぇ・・・。」


アイ「ふええええぇぇ!?」





???「それで大会に出ようとは、片腹痛いな!」


 戸惑うアイの後ろで勝手に部室のドアが開く。部員は全員いるので、入ってくるとしたら部外者しかいないハズであった。入って来たのは古臭いジャージを着た長身の男だった。前髪を上げてサングラスをかけ、なぜか首からストップウォッチ、両手に竹刀という出で立ちである。茉莉香は昔読んだすぽこん漫画に出てくるキャラクターにそっくりなその男を知っていた。


茉莉香「ケイン!?何その格好?」


 海賊船弁天丸操舵手、ケイン・マグドゥガル。かつて茉莉香が船長になる前、その身を護衛するために白鳳女学院担任兼ヨット部顧問として茉莉香のそばにいた事があった。しかし、船長である茉莉香の言葉を無視し、サングラスを光らせてケインはこちらに歩み寄る。



ケイン「時間が無く実践経験も無い。無い無い尽くしのこの状況!オレがやらねば――――」


 特有の台詞臭い感じは客船を襲ういつものお座敷仕事の時のジェントルマンに似ている。唖然とするヨット部部員の前で竹刀を回転させながら天井目掛けて放り投げ、回りながら落ちてきたそれを、ケインはバシっとキャッチした。




「誰がやる!!」


茉莉香「話を聞きなさいよ!やるって何を?」


 一歩歩み出てケインの前に立つ茉莉香。船長のスイッチを入れて叱るように抗議するが、茉莉香の視線を躱したジャージ男はさらに前へ出る。



ケイン「顧問が必要だろ?」

リン「へ?あ、あぁ・・・。確かに顧問は空席だけど。」

ケイン「その話、俺が引き受けた!」


 ケインのサングラスが再びギラリと光る。


茉莉香「ケイン!何勝手に・・・。」


 何の話も聞いていない茉莉香は混乱するばかり。そんな茉莉香に答えるように、ケインは白鳳女学院の学章が映っているIDカードを見せつけた。


茉莉香「教員・・・資格書?」

ケイン「教員資格は更新した・・・。今この俺は・・・体育教師だ!!」

茉莉香「たいいくきょうしいい!?」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 渦巻く気流がありとあらゆる風を寄せ付け、突き放し、切り裂いた。視界は360度どこを見ても暗雲に覆われている。天候は最低最悪、轟音となった風の唸り声と共に、女子高生の悲鳴が幾重にも重なって響いた。



真希「もーいやー!」

リリィ「たすけてぇ!」


 風に煽られてほとんど固定された舵は、設定した進路を全く無視してディンギーを飛ばしていた。舵にいくら力を込めても振り回される風で狙い通りの方向へ切る事ができない。


茉莉香「ケイン!!この設定は無茶じゃないの!!」


 激しく揺れる船内でいくつも鳴るアラーム音に負けないように張った声で、茉莉香はコントロールルームの体育教師に抗議した。



ケイン「これは過去に記録された最強のタイフーン、“フランシスコ2号”の再現だ!」


 最高級を自負するヨット部自慢のシミュレータは、あらゆる空間状況を設定して擬似的な飛行が出来る。中継ステーションがある大気圏外上空から地上の滑走路まで無事にコースを取って着陸するのが、いつもの練習プログラムである。難易度は微風で快晴な天候から、雨や雷雲、強風までありとあらゆる状況をシミュレータで再現できる。ケインは乗り込んだ全員のシミュレータに台風と同じ天候を入力してディンギーを操縦させているのであった。


茉莉香『そうじゃなくて!こんな事してどうするのかって聞いてるの!!』


ケイン「どうもこうもない!実践経験の無い部がいきなり公式大会に出ようと云うのなら、これぐらいは乗り越えてもらわないとな」






アイ「大会・・・っ!」

 茉莉香の一方的な抗議と共に、ケインの言葉を聞いていたアイは、舵を持つ手に力を込める。さらに天候が赤黒く渦巻く気流の波に変わる。各自は瞬時に変わる風の流れに呑まれないように機体を安定させるのに精一杯である。四方八方から迫る風を読んで、帆をそれに合わせる。しかし、ひと度真正面から突風を帆に受けてしまうと、船体バランスはあっという間に崩れる。風に揉まれて機体をウルスラの機体を躱したアイだが、乗り慣れたディンギーと自分の感覚が違う事を意識していた。




ケイン『よぉし終わりだ!お前たちの腕前はよく解った!』


 シミュレータに終わりのアナウンスが流れる頃には、全員全神経を集中させた後で疲労困憊していた。


茉莉香「ちょっとケイン!!幾ら何でも――――。あれ?」


 ふくれっ面でシミュレータから降りた茉莉香は、そのまま真っ直ぐコントロールルームにいるはずの体育教師に抗議しに向かったが、部屋を見渡してもその影はどこにもなかった。思わず様子を見ていたリン部長と目が合うも、リンは両手を肩まで上げて存ぜぬのジェスチャーをした。




アイ「やっぱり・・・ちがう。」




・・・・・・・・・・・・・・・・



ヤヨイ「あー、怖かったぁ。」

グリュンヒルデ「あれが“すぽこん”というものなのですね。」


 最近覚えた俗世の言葉を興味本位で口にするグリュンヒルデ。ヤヨイ・ヨシトミ、ナタリア・グレンノール、グリュンヒルデ・セレニティの3人は部室の外の中庭にいた。ここにはいないアイを加えれば、今年のヨット部の新入部員の4人である。


ナタリア「あたしはけっこう好きなノリなんだけどなぁ。」

ヤヨイ「でも、誰もディンギーに乗った事が無いなら、公式大会に出た事も無い。という事なのかしら?」


ナタリア「ん」


 ヤヨイの疑問に答えるように、グリュンヒルデは、自分の端末から今回の大会に関する情報をピックアップしていた。


ナタリア「ネビュラカップの公式データベース?」

グリュンヒルデ「はい。こちらでしたら記録があると思いまして・・・。」


 色々な学校や企業の優勝記事がスクロールされる中、白鳳女学院で検索をかけてみるとそこには他より数段目を引く内容が書かれていた。




ヤヨイ「白鳳女学院、ネビュラカップ第13回大会において、運営妨害行為及び安全規約違反により、5年間の出場停止処分!!?」

ナタリア&ヤヨイ「「えぇ!?」」


 記事の内容を読み返してナタリアとヤヨイはお互いの顔を見合わせる。今大会は第19回大会。つまり、事件があった第13回大会から6年経過している事になる。





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「白鳳女学院からの参加通知です。」

「とうとうこの時が来たか。」


 カチャリと陶器の音を立たせてカップを置く。


「心中、お察しします。」

「ひょっとしたら、出場して来ないかもしれない。そう期待してもいたんだけどね、果たして、今の我々で対処できるだろうか・・・。」


 彼女は俯いて会議室の円卓を見つめていた。円卓の上に表示された球状のディスプレイには、6年前に大会にその名を刻んだ白鳳女学院の学校名が表示されている。


「あの悪魔・・・・白鳳女学院に。」

「委員長、私に考えがあります。」

「考え?」

「無法者には無法者ですよ。」


 そう言って彼女は通信回線をオンにした。専用通信回線に暗号コードを入れての念入りな通信方式で。一瞬走ったノイズがすぐに消え、モニターの中にアフロヘアの怪人が現れた。



ショウ『はいはーい!こちらハロルド・ロイド保険組合・・・代理人のショウです』




 目の前の美人に思わずモニターに顔を近づける保険組合エージェント。彼女は遠慮がちに眉をひくつかせて明らかにイラついているネビュラカップ大会運営委員長を見た。







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 ディンギーの調整は比較的簡単である。一人乗り用の軽量機体であり、推進機器はかなり小さめでメンテナンスやカスタマイズが容易な事もあって、比較的整備に手間がかからない。本来重要とされるのは、風を受けて機体を加減速、方向転換させる帆の方である。簡単なコネクタの点検を一通り終えたアイは、海から流れる風の心地よい匂いを胸いっぱい吸った。


アイ「ひゃ!」


 目を閉じたまま風の感触を感じていた彼女の頬に冷たい金属室の触感がプラスされる。アイは驚いて飛び上がった拍子にバランスを崩し、冷えた缶ジュースを持った茉莉香の目の前で、ディンギーコクピットに頭から滑り込んだ。





茉莉香「ごめんねー、驚かせちゃって。」

アイ「いえ!いいんですよぉ・・・。でもどうしたんです?こんなところに」

茉莉香「ケインを探してたんだけどね、端末を切っているみたいなんだ」


 弁天丸の乗組員には、それぞれいつでも連絡が取れるように専用の端末を持たせてある。電源を切っている時点で本来の役目は無いも同然だが。今は茉莉香の前に現れる気はないのだろう。


アイ「ケインさん、変でしたね。」


 2年生以上は、ケインが顧問としてヨット部にいた頃を知っているから「先生」と呼ぶ事が多いが、1年生は弁天丸で操舵手をしている海賊のケインしか知らない。もっとも、以前のヨット部顧問の時とは調子というか、キャラクターが違うが。


茉莉香「そう!そうなのよ!あれは絶対何か企んでると思って」



 そう言って缶ジュースをグビっと口に運ぶ。この前弁天丸にヨット部が来た時、また先生をやるという約束をしていたのは茉莉香も覚えているが、ケインがそれをどう解釈しているのかまでは船長の茉莉香でも知るところではなかった。


アイ「うふ。私は楽しかったですよ?」

茉莉香「でも船長としては気になっちゃうんだよねぇ・・・。ま、明日絞りあげるとするわ。」

アイ「茉莉香先輩、海賊と部活で大変ですね。」


茉莉香「本当にねぇ・・・。自分を褒めてあげたいわー。でも、頑張ってる後輩にジュースを差し入れるくらいの余裕はあるのよ?」


 パチっとウィンクしながら茉莉香はアイに言う。アイはきょとんとして逆に茉莉香に聞いた。


アイ「がんばってる・・・?私が、ですか?」

茉莉香「え?」

アイ「そういう風に意識した事なくて・・・。好きなんです、ヨット。」


 両手に持った缶ジュースをそっと芝生において、アイはディンギーに触れる。


アイ「こうやってヨットをいじっていると、つい時間が経つのを忘れちゃうんです。」


 アイはそう言ってコクピットの流線形のシールドの上に器用に乗ってみた。後ろから風が静かに吹き抜ける。日が傾いて赤く光る夕陽を正面から受けて、小さな少女はその体をめいっぱい伸ばした。


茉莉香「えへ。なんとなく解っちゃった・」

アイ「え?」


茉莉香「ううん。なんでもない。私にも手伝わせて!」


アイ「あ、はい!ありがとうございます!!」


 言ってバランスを崩しかけたアイは、帆にしがみついてなんとか体勢を留めた。必死に両手を振り回してバランスを取るその姿に、思わず茉莉香は吹き出した。

 カモメがその上で、鳴いていた。










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 私掠船免状による帝国公認の海賊。独立戦争から続く公式の海賊免許はしかし、直系の子孫にしか継承できない。先代船長である加藤ゴンザエモンが死んだ後、その免許の取得のために茉莉香は弁天丸の船長になった。私掠船免状を持つ海賊は軍隊として扱われ、様々な航行法で宇宙船に課せられる規制をその特殊免状によって免除されている。つまり、ほとんど何にも縛られずに自由に宇宙を飛び回れるのである。前に梨理香は言った。民間船と海賊船の違い。普通の船には行き先がある。それに合わせた予定を組み、それに合わせた法律の下、制限された航路を使って航海をする。

 それを全て無視できるのが私掠船免状であり、海賊であった。なので、海賊としての力を利用しようとする組織は実は裏では多い。実際、加藤茉莉香の存在を狙った勢力も水面下ではお互いのに睨みを効かせている。俗にいう「不可侵協定」であり、簡単に言うと“抜けがけしたら皆殺し”と云うようなものであった。



エージェント「ビスクカンパニー。オリオンの腕を領地(シマ)にしているゴロツキどもだ。」

「星系外の連中か・・・。」



 不可侵協定によって互いに手を出さずに、優しく云えば見守っている様々な組織がいる。どこかの裏組織のそんな会話をケインに連れて来られた加藤梨理香は、上で聞いていた。


梨理香「なんだって今更あたしにこんなものを見せるんだい?」


 それぞれのテーブルにぽつんとある灯りだけで通路すら足元が見えない暗いバーの片隅にいたケインは、家からそのまま直接来た梨理香と違って、店の雰囲気に合わせたスーツを着ていた。梨理香の質問に答える代わりにケインは、目配せでカウンターに座ってこちらを見ているフードを被った男を指した。



梨理香「あいつ――――!?」


視線をケインの追った梨理香は、その男の存在と正体に気づいたらしく、この状況を瞬時に全て読み取った。

梨理香「そうか、そういう事かい。へぇ、どうりでこんな胡散臭い奴らが、茉莉香に手を出さないなんて話に素直に従ってるわけだ。」

ケイン「我々は心配しているのです。今はこのように守られているのですが、白鳳女学院を卒業したその後は・・・。」




梨理香「それはあの子が決める事さ。あの子自身が、好きなようにね。」


 相手には伝わらないよう声のボリュームを落としたハズだったが、こちらの言っている事を理解したのか、男はそのフードの下からニヤリと口元を上げた。





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“好きなんです。ヨット。”


茉莉香『私、なんでヨット部に入ったんだっけ・・・』


 下り坂を勢いのまま自転車で降る茉莉香の頭に、アイの言葉がリピートされる。


 心地よい風が吹く中、ふとペダルを漕ぐのを忘れて自転車はかたりと止まる。

 ちょうどその時、どこかの自家用シャトルが発進体勢をとって垂直上昇をしている最中だった。一定の高さまで上がった後、ブースターを点火してそのまま大気圏まで一気に上がっていったシャトルを茉莉香はぼーっと見つめていた。


茉莉香「そうだ・・・。宇宙に行きたかったんだ。」


 海賊になったのも、宇宙を選んだから。自分の母も、会った事の無い父も、みんな宇宙で輝いていた。








茉莉香「好きなもの・・・か。」



 誰に言うでもなく、風に問いかけてみる。それに合わせたようにバッグにしまっていた端末から着信音が鳴ったのに気づいて茉莉香は現実に引き戻された。



茉莉香「はい。」

ミーサ『船長、仕事の依頼よ』




 仕事の話は自宅でもできるが、海賊として依頼を受けるならみんながいる場所が良い。その足で専用シャトルから中継ステーションに停泊している弁天丸に向かった。






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茉莉香「警備依頼?」


 船長席のコンソールでお馴染みアフロヘアの保険組合エージェントから内容を聞く。


茉莉香「依頼主は誰なんです?」


ショウ『ネビュラカップ運営委員会だ。』


茉莉香「えぇ!?」


ショウ『何者かがレースに妨害を行なってくるから、それを阻止してもらいたいんだと。』

茉莉香「妨害って・・・。」

ショウ『君のところのヨット部も参加すると聞いたんでー、ちょうどいいかと思ったんだが?』

茉莉香「確かにそうだけど・・・。う〜〜〜〜ん・・・・」


 相変わらず小さなモニターにアフロヘアをいっぱいにして、怪しげにサングラスを光らせながらショウが言った。ブリッジは停泊中で人が出払っているようで、茉莉香の横にいるミーサが留守番をしているだけだった。


茉莉香「解りました。その依頼、受けます。」

ショウ『うお、決断早ぇな。助かるぜ』

茉莉香「具体的な内容は?」

ショウ『それは追って文章で送信する。目を通しておいてくれい。ほんじゃよろしく!』


 最後に人差し指と中指を合わせた軽い敬礼をしたまま、ショウは通信回線を切った。


ミーサ「いいの?弁天丸で仕事するって事は、そのヨットレースは出ないって事よね?」

茉莉香「ううん。レースも出るよ・・・。まだ選手になるかもわからないんだし、どーにかなる!」





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 太陽が照りつける浜辺。茉莉香の住む鯨座宮たう星系海明星(うみのあけほし)は、その広大な地表の大部分を大洋で覆う青い惑星である。都心部である新奥浜市中心街から少し外れれば、大自然豊かな大海原がそこに広がる。久しぶりに宇宙以外での校外学習に駆り出されたヨット部は、太陽照りつける浜辺の一角で整列していた。それと云うのも先日自らをコーチと名乗る熱血体育教師に呼び出されたからである。


ケイン「よおし、全員揃ったな?」


 普段は一人ぼてぼての船乗りの服を着ているケインだが、今は海パン一丁にサングラスを光らせていた。無駄に筋肉質な体を女子校生徒に披露しているのは正直厳しいものがあるが。


アスタ「あのー、ケイン先生。何でビーチなんですか?」

ケイン「先生ではない!コーチと呼べ!」

リリィ「はい?」

ケイン「クォーチだっ!!」

リリィ「は、はいっ」


 特訓と思って何か参考になるような漫画でも読んできたのか。昨日よりも増してノリノリな体育教師。一応関係者として頭を悩ませる茉莉香は、深くため息をつく。


真希「茉莉香、あのさ・・・」

茉莉香「言わないで。頭痛くなってきた・・・。」


 真希の言わんとしている事を察して流す茉莉香。


ナタリア「はい!コーチ!なんでビーチなんですか!」


 正直ほとんどの部員が面倒くさがっている中、話を進めようと手を上げるナタリア。


ケイン「良いノリだ、ナタリア君。今日は、ネビュラカップに出場する選手の選抜を行う!」


「「「「「「「「「えぇ〜〜〜〜〜〜!!!!」」」」」」」」」」


 一斉に整列しているヨット部から苦情の声が飛び出す。


アイ「あ、あのコーチ!どうやってですか!」

ケイン「知りたいか?自分達が水着でこんなところに集められているわけが!」

アイ「は、はい!」

ケイン「それは・・・」


 ギラっとケインのサングラスが光る。おもむろに彼は走り出したかと思うと茉莉香達の見えるか見えないかのところで止まり、そこから海に入ったかと思えば、黄色と白で彩られた特徴的なウィンドサーフィンを操って、波の間をすり抜け戻ってきた。








「これだあああああああああああああ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





ケイン「実践で必要なのは、操船技術ではなく、それを発揮するための体力と集中力だ!」


 熱血漫画よろしく根性論を語る体育教師。それだけならどうとでも言えるが、たう星系切っての海賊船弁天丸の操舵手の云う事なら、別の意味合いも入ってくる。


ケイン「沖のブイを回って戻ってきた上位3名をネビュラカップの出場者とする!」

アイ「え!あ、あの、ほんとうに?」

ウルスラディンギー関係なぁ〜い〜・・・。」

リリィ「アタシ達マリンスポーツの授業でちょっとやっただけです!」



 冒頭で言ったように、ヨット部と言っても本当の大洋帆船の操船を目的としているわけではない。あくまでディンギーを中心とした帆船型宇宙船の操船を取り扱う部である。本当に海を舞台に帆を使う船に乗るのは、みんな授業で学ぶ最低限のものだけだった。


茉莉香「ケイン!本気でこれで決めるつもりなの?」

ケイン「クォーチだ・・・!冗談だと思うか?実践で技術に体がついてこなければ、危険なのはお前達自身だぞ!」


 むちゃくちゃな理屈を竹刀と一緒に振りかざす体育教師。さすがに茉莉香もヤケクソ気味に言う。


茉莉香「うぅ・・・もう!わかったわよ!!やってやろうじゃないの!!」

ケイン「よおし。」


アイ「これに勝てば大会に・・・。うん、がんばる!」


 風に吹かれないように船体をやや斜めに傾けて、沖のブイの方へ向いて一列にヨットを浮かべる。ものがレースなだけにスタートに一番集中力を使うのもあって、浜辺はさきほどとは打って変わって静まりかえっていた。波が弾んで微かに揺れる音、そして空でかもめの鳴き声を聞きながら、風の変わりを読んだケインはスタートの声を盛大に上げた。



 慣れない者は少し進んだだけで倒れてしまう。それだけバランスを取るのが実はシビアである。風に少しでも逆らうと船体が大きく揺れ、それが体に伝わってバランスを崩すと、あっという間に船体ごともっていかれる。


グリュンヒルデ「お姉様!!」


 見た目とは打って変わって華麗に波を読み取るグリュンヒルデは、すぐにコツを掴んでヨットを安定させた。しかし、その後ろで声がしたかと思うと、グリュンヒルデとは反対にグリューエルは、頭から真っ逆さまに海で落っこちていた。


グリュンヒルデ「お姉様・・・そういえば泳げませんでしたわね・・・。見ていてくださいお姉様、どんな手を使ってでも仇を打って差し上げますわ!」


 何か固い決意でとりあえず気を引き締めたグリュンヒルデは、そのまま脱落していく他の部員達が作り出す波を利用して、ぐいぐい先へ進んでいった。


茉莉香「やると言ったからには、全力で勝ちを取りにいきますか!!今のうちに出来る事は、全部楽しんでおかないとね!」


 茉莉香は、アイの横を通り過ぎる。アイはバランスを取って船体を安定させつつ、自分の探していた風をようやく見付けて、スロースタート気味にヨットを滑らせた。


アイ「よし、いい風だ!」







イズミ「みんなー頑張れー!」

ペリンダ「誰が勝つと思う?」

アスタ「海の家でアイス買ってきたー!」


 後輩の見慣れない後ろ姿を見ながら、賭けレースでもしようかと考えている3年生達に気づいたケインは、振り向きもせずに言い捨てた。


ケイン「でだ。お前達はなんでここにいる?」

リン「いやぁ・・・あたし達は頭脳ロード担当なんで。」


 あまり運動するのは気が進まずに、今回のネビュラカップの選手立候補もパスしたリン達は、暴走気味のケインに翻弄されている下級生を温かい目で見ているつもりだった。


ケイン「あまったれるなぁ!!ビーチ往復50回!!」


「「「「えええええええええ〜〜〜!!!!!」」」」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 たう星系に数ある星々の中でも特に青い海に覆われた惑星、海明星。現在海賊船弁天丸はたう星系海明星の周辺領域で待機中。仕事があればすぐに地上の茉莉香を引っ張って出動するようになっている。ショウから依頼された警備の仕事はまだ一週間以上ある。普段はそれまで待機のはずだが、船長不在でろくに行動できないまま、海賊船弁天丸は海明星重力圏内を垂直降下していた。





ケイン「そろそろ・・・か。」




・・・・・






シュニッツァー「なぁ、本当にいいのか?」


 弁天丸のブリッジ、武器管内指揮席に座るシュニッツァーが隣の席のクーリエに聞いた。


クーリエ「いいんじゃない?ケインがやれって言ってるんだし。」


 非常時を告げるアラームが鳴り響き、赤色ランプがブリッジを赤く染め上げる。弁天丸は地上と宇宙を行き来するような設計で作られていないため、そのまま船ごと地上に降りるには計算された安全な軌道をとって船に掛かる負担を最小限まで抑える必要がある。だが、今行なっているのは、重力圏内からの垂直降下。弁天丸の船首は、まっすぐ海明星の地上へと向けられていた。



ミーサ「やるならさっさとして!慣れない事やらされてるんだから!!」



 ミーサがケインの操舵席で舵を左右に振り回しながら抗議する。ケインが白鳳女学院に出張している間は変わりの人間がいざと言う時に舵を切る必要がある。本来なら自動運転でも惑星間移動くらいはなんの問題もないが、今回は設計外の垂直降下である。地上へ引っ張られ始める船体を垂直のまま安定させ、ケインの指示通りの座標に弁天丸の主砲を合わせる。そんな3人のやり取りを赤の他人で見ている三代目。茉莉香の私物の質量制限令に反抗するかのように、どんどん機関席にぬいぐるみの類が増えていく。




三代目「ミーサは器用だよなぁ・・・。」

ミーサ「ほら早く!!」



 船長が乗組員全員の命を背負うなら、操舵も同じ。そして、武器管制は相手に損害を与える可能性を含む兵器をコントロールする。まさか自分が海原を走る女子高生の海域に主砲の標準を合わせる羽目になるとは、シュニッツァーは夢にも思っていなかった。


シュニッツァー「照準良し――――発射。」





 そうして船の最大の攻撃でもある髑髏のボタンをサイボーグの指で押す。途端に集まったエネルギーはしかし、主砲には直接回さない。この手の光学光線銃(レーザー)は実際に相手を焼き切る出力と、その出力を射出するための出力の両方が必要になる。要は弾と引き金である。ケインの指示した海域を狙った弁天丸の主砲は、船首部分を伸張させてそこにエネルギーを集中し、放出する。ただし、今回は直接相手に送るレーザー出力は最低限に抑え、発射してもすぐに空中で拡散するようになっている。幾ら集中したレーザーでも拡散すればその威力はただの発光体に留まるのみである。
 弾無しのまま空撃ちされた主砲は、打ち出す際のエネルギーだけをモロに地上、海面に叩きつけた。音速を超えて真空になった大気の層は、幾重にも重なって海を貫く。着弾地点は茉莉香達が滑っているポイントよりはかなり距離が離れている。だが、その衝撃で起こった巨大な津波は遠くで見ている茉莉香から見てもかなり巨大なものだった。


 音と波に遅れて、ものすごい豪風が海面と浜を突き抜ける。



「きゃあああああああああ!!!」



 立っていられないほどの豪風は、海を走るヨットを尽く吹き飛ばす。



茉莉香「まさか、これって弁天丸が・・・何考えてるのよケイン、こんなんじゃ誰も残らないわよ!!」


 風が耳に当たって自分の声すら自分の耳に入ってこない。そんな状況で、茉莉香は自分が言っていた事が早くも的外れだった事を思い知る。


リリィ「や!!」

ウルスラ「巻き返すよー!」




 実際、突然の衝撃で転覆した船は、沖をUターンして浜へ向かっていたヨットの半分以下でしかなかった。茉莉香を含めてまだけっこうな数のヨットが、この豪風の中、風を読んでものすごいスピードで進んでいる。


茉莉香「ええええええええええええええ!!?」


真希「おお!」

グリューエル「みなさん凄いですわ!」


ケイン「嘘だろ・・・?」


 この作戦で、せめて一人、良くて三人程度は残るかなと思っていたケインだったが、実に6隻のヨットが現在こちらに向かって進んでいる。


ナタリア「おおおりゃああああああ!!!!」



「1位、ナタリア君!!」


 最初からスタートダッシュを切ったまま独走していたナタリアが、衝撃波で発生した大波を利用して一段早くゴールした。


真希「おぉ!?」

グリューエル「−!?」


「2位、グリュンヒルデ!!」


 そして、ナタリアのゴールと同じくすぐ後ろに隠れるように滑っていたのはなんとグリュンヒルデ。いつの間に仕込んだのか、よく見るとナタリアのヨットと自分のヨットをロープで結んで独走するナタリアの後ろをピッタリ滑っていたようだ。


グリュンヒルデ「失礼致しますわ」


真希「い、いいの。あれ?」

グリューエル「見事です。グリュンヒルデ!」

真希「あ、アリなんだ・・・。」


 仇打ちの約束を果たしたかのように、実の妹を称えるグリューエル。



ウルスラ「いつも良いとこ取られてばかりだし。」

翔子「たまには前に出させてもらうよー」


 そしてグリュンヒルデに遅れて、浜に向かって滑る2組。残り1人の出場者はどちらかかと思われたその次の瞬間。



アイ「はああああああああああ!!!!」


 弾けた荒波を巧みに受け流しながら、最速スピードをマークして一気に跳躍して2人を追い越すアイ。



「「うっそー!?」」


ケイン「どいつもこいつも、なんて奴だ・・・。」


 半分呆れたようにケインが言う。前々から曲者揃いの人間が多い部だと思っていたが、改めてケインはそれを思い直した。


アイ「茉莉香先輩、私、負けません!」

茉莉香「こっちも本気で行くよ!!」

アイ「はい!」


 アイが飛び越えた波で失速したウルスラと翔子。残ったのはアイの前を進んでいた茉莉香とアイの一騎打ちになった。


 お互いのヨットの船首が綺麗に並んだ。滑る場所はほとんど変わらず、そうなると受けるお互いが風にも違いは少ない。ほぼ、同一条件で拮抗する2つのヨットは、そのまま浜辺に一直線に進路を取る。


茉莉香「はああああああああああああああ!!」

アイ「やああああああああああああああ!!」




 揺れ動く波間で、ヨットの神様が味方したのは・・・。




「ゴール!!3位、アイ・ホシミヤ!!」



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アイ「やった!やったぁ!!」


 日も傾き出した浜辺で、アイはヤヨイの手を握って嬉しそうにジャンプした。


ケイン「ちょっと、からかうくらいのつもりだったんだけどなぁ・・・。色々驚かされたぜ。」

茉莉香「冗談にしては質が悪いわよ!どういうつもりか知らないけど、もうやめてよね!」

ケイン「ははっ、そうだなぁ・・・。ところで、勝ったらどうするつもりだったんだ?依頼が来てるんだろ?」


 海パン姿のまま、弁天丸の操舵手の顔に戻ったケインが茉莉香に聞く。


茉莉香「方法はいくつか考えてたんだけどねぇ・・・。レースしながら海賊っていうのも、いいかなーって思ったんだけどなぁ・・・。」

ケイン「欲張りだな」

茉莉香「そお?」

ケイン「あぁ。だが、海賊はそれぐらいの方がいい。」

茉莉香「うん。でもすっきりした。今の私より、アイちゃんの方がヨットが好きだったって事なのよね。」


 拮抗した互いの条件が一緒なら、後は技術と想いの強さである。お互いに慣れない海上ヨットで勝負に出た以上、思いの強さが勝敗を決する。


ケイン「うん?じゃあ今お前が好きなものってのは?」

茉莉香「“おまえ”?ケインさっきっから口乱暴過ぎ。」

ケイン「おっとそうだな。すみません船長。」


 ぺこり。と体育教師は頭を下げる。


茉莉香「うん!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ケイン「よし、これで選手は決定した。大会までの残り時間、選手もそうでないものも、びしびし鍛えるぞ!!」


「「「「「「「「「は〜〜い。」」」」」」」」」」


 気の抜けたような声が揃ってケインに向けられる。さすがに疲れきった様子な事は見れば一目瞭然なので、ケインも何も言わない。


ケイン「だがまずは、使ったカロリーの補充だ!これより全員に、ランプ館でパフェの補給を命じる!・・・・俺の奢りでな。」


 夕陽に反射してオレンジに染まる海原を背に、女子達の歓喜する声が響き渡った。





のだが。




マミ「先輩・・・こんなところで何してるんです?」


 サボろうとした罰が下ったのか、買ってきたアイスも何もかも衝撃波で吹き飛んだまま、砂浜に顔を埋めるリン達・・・。偶然通りかかったマミが恐る恐る話かける。


リン「もう・・・・ダメ」



 アイスは犠牲になったのだ・・・。


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三代目「蓄圧機作動。出力97%出力誤差許容範囲内。」

クーリエ「電装系全部おっけえ」

ルカ「亜空間、晴朗なれど、波高し」

百眼「お嬢ちゃん達の宇宙船(ふね)も出航したようだぜ」



 弁天丸に復帰して久々の仕事。ブリッジに聞き慣れたクルーの最終報告の声を聞く。


『こちら管制局、弁天丸出航を許可します、出航を許可します。』


 管制局に提出した航行計画(フライトプラン)はネビュラカップ会場警備による周辺領域の飛行である。保険会社の依頼によって今回海賊船弁天丸が行うのは、大会会場の妨害行為を防ぐ警備の仕事。



ケイン「出航許可確認しました。さ、船長。」


 先日までのスポコン体育教師とは打って変わってスマートに管制局に応対しつつ自分に流すケインを見て、まるで別人のように茉莉香は見つめた。



茉莉香「ふつうね・・・。」


ケイン「?」


茉莉香「じゃあいこう!弁天丸、発進!!」











 海賊船は宇宙へ向けて。行き先はヨット部と同じく第19回ネビュラカップ大会会場。そこで、白鳳女学院因縁の事件の真相と、裏組織の策略に茉莉香は立ち向かう事になるが・・・それはまた次回。






次回、「決戦!ネビュラカップ」



 チアキちゃんもいたー!という事は海森星の代表選手なのかな。



とにかく色んな真相は次回!先が読めないアニメオリジナルストーリー!












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