【毎日更新】line walker ゲームプレイ日記

毎日欠かさず更新して約11年目・・・・・。FGOとホロライブ・ホロスターズ中心のブログです。

モーレツ宇宙海賊第二十五話「開幕!海賊会議」









 宇宙を股にかける。股にかけるような宇宙であるならば、それはあくまでも既知なる範疇の宙域である。そんな心地の良い場所に安寧を見出すのも人生、その一方で新たなる世界を求め、見知らぬ宇宙へ飛び出して行く者もある。それはまさに運命。女子高生海賊加藤茉莉香の選ぶ道は果たして……。




 海賊の歌に乗ってその正体が判明した海賊の巣。独立戦争時代に結成された海賊艦隊の集結の地。しかし、そこに向かう弁天丸の前に現れた海賊狩りグランド・クロス号。一隻で艦隊にも匹敵する火力の攻撃を受けつつも、茉莉香の判断とケインの操舵術でなんとか敵の弾幕を回避、逃げ切る事に成功。
 しかし、海賊の巣に着いた早々、グランド・クロス号の艦長を名乗るクォーツ・クリスティアが会議場に現れる。一方で、ケインの不審な行動を追っていたルカは、逆にケインとミーサに狙われる。ミーサは不審な行動を取っていたのはケインよりルカだといい、事実、ルカは敵が送り込んできたアンドロイドに擦り変わっていた。
 そして正体を隠すケイン。何やら不穏な香りを漂わせつつ、とりあえず茉莉香たちはルカの形をしたアンドロイドを解析していた。






茉莉香「ルカがアンドロイドになってたなんて…、わからなかったわ……。」

百眼「まー、普段から居るんだか居ないんだかわからない奴だったからなー…」


 百眼が操作する端末からは、何本ものケーブルが仰向けにベッドに横になるアンドロイドに繋がっている。いくらアンドロイドと言われても、見た目はどうみても弁天丸航法士のルカである。額と腹に穴が空いてなければ…であるが。


百眼「あー……。だめだやっぱり。」


 端末からアンドロイド内部のデータを引き出そうとする百眼。しかし、この手のモノにありがちな自動消去プログラムが、内部のデータを全て真っ白にしてしまっていた。


百眼「メインコンピュータは生きてたが、機能が停止したのと同時に初期化されてる…。こいつの主の手がかりは掴めなかったよ。」

ミーサ「このアンドロイド、何処の何製?」

百眼「銀河帝国ヒューマン・トーチ社製の特注品だ。恐らく、帝国軍の特殊任務用だ。どうやってうちの情報を漏らしてたんだか……。」


 そう言ってため息をつきながら百眼は端末を閉じた。


茉莉香「えっと……本物のルカ、どうなっちゃったんだろ……。」

ミーサ「ルカも海賊よ。どんな時も、覚悟は出来てると思うわ」


 まるで亡骸のように横たわる馴染みの顔をしたアンドロイドに茉莉香は視線を向けた。

 擦り変わっているとするなら、オリジナルは擦り変えた方には必要が無い。オリジナルともしコンタクトしてしまえばコピーがバレてしまう。そのリスクを最小限にするため、最悪、消されていたっておかしくない。



百眼「変わった奴だったが、淋しくなるな。」



 そんなしんみりとした葬式のような空気は、景気良く開かれた扉と共にかき消された。





ルカ「はぁい」


茉莉香「えええええええええええええええええええーーーー!!」
百眼「ええええええええええええええええええーーーー!!」


 扉の中から現れたのは、そこに横たわるアンドロイドと瓜二つの人物だった。ただ、若干肌が黒く焼けている事と、後ろに大量の郷土品をぶら下げている事を除けば。


百眼「る……る!るるる…る…る……。」




ルカ「失礼ね………。あるわよ、………足」




















ニコまっくすばりゅーさんより「無限の愛」






 ちょっと日に焼けて帰ってきた航法士。大胆にも海賊の巣に現れたクォーツ。寝癖のケインとそうでないケイン。銀河帝国の海賊も入り混じって、辺境宇宙での海賊戦争は、ついにその火蓋を切ろうとしていた!






 激烈!炸裂!強烈!破裂!爆裂!モーレツ宇宙海賊第二十五話「開幕!海賊会議」











茉莉香「ん〜〜〜……。」


 じっと目を凝らして、茉莉香はカラフルなシャツを広げた。派手な色合いをモチーフに、華や星が彩られた薄手のシャツは、俗にアロハと呼ばれるリゾート惑星の物産品である。




ミーサ「で?急遽予定を変えて別のリゾート惑星に行ってたって…?」

ルカ「えぇ。」


 かちゃり、とルカはカップの中身を口に含んだ後、話を続けた。


ルカ「最初は、オーロラ見る、つもりだったんだけどね。ほら、こないだの、ヨットレースの時、十分見ちゃったから、温かい星に行ってきちゃったのよ」

茉莉香「襲われなかったの?誘拐とか?」

ルカ「誘いをかける男たちはいっぱい。引く手数多ね。楽しい日々だったわ」


 リゾート惑星には、単に観光に来る客と、その観光客を狙って商売するもの、中にはナンパ目当てで惑星に移住する者もいる。

 常夏の風が漂うビーチで、バカンスをエンジョイしているルカの姿は、茉莉香にはちょっと想像し辛かった。


ルカ「ふ」


 思い出し悦に入ったのか、いきなり歪んだようにルカが笑う。それに若干引きつつも、茉莉香は話を戻した。


茉莉香「で、本当に貰っていいの!」


 茉莉香はルカから受け取ったカラフルなシャツをベッドに並べて厳選している。


ルカ「えぇ。十分楽しい思いをさせてもらったから。」

茉莉香「え?」



 ルカの云う楽しい思いとは、バカンスの事だけではなかった。だが、この時の茉莉香たちはまだ知らない。









・・・


 茉莉香が銀九龍(親父さん)に頼んで界隈に流した海賊の歌によって、海賊の巣には様々な海賊が結集した。由緒正しい私掠船免状を持つ歴戦の海賊船。独立戦争当時から生きている弁天丸やバルバルーサ、そしてそれに続くように海賊として名を馳せた盟友たち。己が勇姿こそ最強、と言わんばかりに、海賊の巣のドックは、数々の海賊船で溢れていた。


 一度に何隻も見ることができない、そんな貴重な光景に物言わぬ静かな面持ちで、ケインは眺めていた。




ルカ「お礼を言わないといけないわね。」

ケイン「あぁ。よろしく言っとくよ。」


 最低限のやり取りで会話する二人。つい最近、休暇を取って出かけたルカであったが、実は襲撃にあっていた。それはルカを偽物と擦り変えようとしている組織にほかならない。高級コートを羽織ってキャリバックを滑らせて歩いていたルカの目の前に、銃口を向ける大男たち。しかし、彼らが引き金を引く寸前で、物影から飛び出したその人は、あっという間に5人の男の手から銃を撃ち落とした。その姿、出で立ちは紛れもなく、かつて一世を風靡した女海賊、ブラスター・リリカその人だった。



ルカ「伝説のブラスターの乱舞、見られて良かったわ。」

ケイン「そいつぁ運が良い。」





クーリエ「ん?ブラスター?」


 遠くで話す二人の会話の端が耳に入ったクーリエ。長期戦闘に備えて買い貯めした駄菓子を懐に抱えていた。








・・・






ケンジョー「残念だが、例の侵入者は行方不明だ。見張りを倍にして臨むしかねぇな。」


 突如現れたクォーツは、たう星系の周域で活動する海賊は「もはや過去の遺物、無用の存在。いなくなっても誰も困らない。」と茉莉香たちを否定し去っていった。ステルス装備をしているらしく、背景に体を同化させて姿を消したので、以前捕らえられずにいるままである。


チアキ「グランド・クロスの艦長だって言ってたのよね?そいつ。」

茉莉香「うん。そう言ってた。」

チアキ「嘘なんじゃない?何で敵の艦長が一人でノコノコこんな所に来るのよ?」

茉莉香「さぁ……でも…。」


 茉莉香は一瞬視線を落としてからチアキを見た。あの時、クォーツが見せた顔、その立ち振る舞い、茉莉香には覚えがある。


茉莉香「なんかあの子、同じ感じがした。」

ミーサ「何が?」

茉莉香「海賊っぽいなぁ…って。」


「キャプテン!大変だ!」


 突如扉を開けてバルバルーサの見張りの船員がやってきた。


ケンジョー「どうした?」


「変な女が会議場に!」






・・・・・





 茉莉香たちが会議場に入った時、既に内部は戦闘寸前の状況だった。数々の偉業と功績を残した歴戦の海賊たち。その全員が中央の玉座に堂々と座る女を見ていた。回りの男たちに一斉に銃口を向けられてなお、クォーツは涼しい顔でこちらを見ている。




 茉莉香が会議場に入るなり、クォーツの視線は茉莉香に向けられた。茉莉香もクォーツを見返すが、その時彼女が最初に現れた時と違ってマントを付けている事に気がついた。それは金色のドクロの装飾品を肩に付けたものだった。



茉莉香「マント…。ドクロだ」



 その時、役者が全員揃ったのを見計らったかのように中華銅鑼の鐘の音が会議場いっぱいに響いた。


おやっさん「席に着け海賊ども!ここは海賊の巣、海賊だけが入れる、海賊だけの場所だ!!銃を収めよ、殺し合いも御法度!」


「こいつはどうなんだ!ここ最近、小娘で海賊になったのは、そこの弁天丸だけだろ!!」


 声を荒げる一人の海賊船長。たった今入場してきた茉莉香を指差す。



茉莉香「ど…どうも〜…」

チアキ「――……。」


 とりあえず軽く挨拶する茉莉香だが、空気を読みなさいとチアキが小突く。


おやっさん「お前さんのような若造が知らないのは無理もない。」

「何ぃ!!」

おやっさん「恐らく、ここにいるほとんどの奴が知らないだろうから教えてやろう」

ケンジョー「驚いたな。本当にいやがったのか」


 おやっさんの言いたいことが何なのか察して、ケンジョーは驚いた様子でクォーツを見た。


チアキ「親父?」


おやっさん「私掠船免状を持つ者だけが海賊に在らず、肩口に輝くドクロを見よ、これこそ、銀河帝国が認めた帝国お墨付きの宇宙海賊の証だ!!!」



 帝国の海賊。鉄の髭も同じように名乗っていた。銀河併合を目的とする銀河帝国は、現文明の最高権威を持っている。つまり、宇宙の中心と言ってもいい。茉莉香たちの住む鯨座宮たう星系は、そんな帝国のごく一部であり広大な宇宙帝国からすればド田舎にあたる。つまり、地方で細々とやっている茉莉香たち海賊に対して、クォーツは銀河帝国の中央で堂々とやっている海賊なのである。ご当地人気の弁天丸のような存在とはある意味で対照的な存在になる。



茉莉香「伝説の海賊?」

ミーサ「こどもの頃はおとぎ話だと思ってたのにね」


『そもそも私掠船免状が発行されたのもな、銀河帝国に海賊アリと云うのを、当時の政府がパクったのじゃよ。』


 スリーJと呼ばれている男が声を上げた。片手にいつも酒を握って座り込んでいる三人の老海賊は、独立戦争当時の情景には良く詳しい。


茉莉香「パクリ?」


『背に腹は変えられないってな!』

『独立政府の戦力になる代わりに、こちらも商売がっぽがっぽ。それに惹かれてワシも海賊になったようなモンじゃからな。』

『ひっひっひ。違ぇねぇ。』



茉莉香「えっとぉ…皆さんは?」


 一気に緊張感を崩す様はある意味余裕の現れでもある。


『ワシらはオリジナル……ひー、ふー、……何番目かの?』

『ワシは10番目じゃ!お前さんは8番』

『ワシは9番目!言わばワシらはオリジナルセブンに成り損ねたっちゅうわけじゃ…』



 独立戦争当時、政府が海賊に私掠船免状を発行するにあたって、最初に名乗りを上げた7隻の海賊船をたう星系最古の海賊船としてオリジナルセブンと呼ばれ、弁天丸やバルバルーサもそのひとつである。




『三人揃って朝まで飲んでたからのぅ…』

『役所に行きそびれて先を越された!』

『あ〜、そうだったそうだった』




「我はクォーツ・クリスティア。未踏の宇宙を旅する帝国の先駆けの一人!」


 それまで静かに押し黙っていたクォーツは玉座から立ち上がって宣言するように名乗った。


ケンジョー「その先駆けが、何でこんなところにやってきた?ここは帝国の第七艦隊も滅多に来ない辺境の星系だぞ?あんたがわざわざやってくる事もあるまい?」


 ドスの効いた声でクォーツに問いかけるケンジョーに悪乗りして、回りの海賊たちもクォーツへの厳しい視線を一層強くした。


クォーツ「そこの加藤茉莉香に聞いているであろう?今、私は故あって機動戦艦グランド・クロスに乗っている。目的は………海賊狩りだ」




 じゃきん。じゃきん。クォーツを取り囲む海賊たちはおやっさんの声で銃口を下げていたが、再びクォーツにそれを向けた。しかし、向けられた本人は全く動じていない。


クォーツ「………。」

茉莉香「戦いましょう!」

チアキ「ふぇ!?」


 茉莉香は突如声を張った。


茉莉香「この人は私たちを舐めています。だからノコノコとやってきた。」


「だったらなおさらだ!!」


 一人の船長が手を上げて部下に合図する。その場で船長を囲んでいた部下全員は、クォーツに銃口を向けて攻撃の姿勢を取った。


茉莉香「海賊の巣では人殺しは御法度!!………ですよね?」


おやっさん「うん。そうじゃ。」


 おやっさんに乗っかる茉莉香。その威勢に周囲の海賊は徐々に呑まれる。


茉莉香「正々堂々戦う。こそこそスパイを寄越したり、待ち伏せをするよりもよっぽど合理的です。」


 照明が落ちたように会議場は真っ暗になり、誰が操作しているか、おやっさんと茉莉香にスポットライトが当たる。


茉莉香「そう思ったから、貴方はここに来たのではないですか?」


 茉莉香の問いかけに応じるように、クォーツの真上からもスポットライトが当たる。一瞬彼女は躊躇ってライトの外へ出るが、再び真上から照らされて降り注ぐ光から逃げるのを諦めた。


クォーツ「勝ってしまうけど、いいの?」





茉莉香「それはこっちの台詞です。つまり、お互いにとって悪い話ではないでしょう」


ケンジョー「ふ………。」


 海賊の誇り。それはどんな勝負にも屈せずに、どんな困難、荒波をも越えていく信念。その信条を新参の女子高生に諭されては、海賊としてこれ以上言う事はないだろう。回りにいた海賊たちから緊張が抜けたのを茉莉香は感じた。一人を除いては。


「納得いかねぇ!!何で正々堂々対決なんて流れになるんだよ!!お前ら、それでも海賊か!!」


クォーツ「ほう……。」


 船長はそう言って腰に下げた剣を抜いて構えた。


「俺は今、この女を殺す!それで終いだ!!」



 がたん。


 突然暗い会議場に鳴り響く機械音。程なくして、クォーツの立つ位置から少し離れた場所で、床から浮かび上がるように大男が現れた。



茉莉香「そっか…どこかで見たことがあると思ったら…」


 海賊、鉄の髭。茉莉香たちの前に現れ、グランド・クロス号を攻撃し撃退していった銀河帝国の海賊船。彼の肩口にもまた、クォーツと同じく帝国お墨付きの印である金色のドクロが輝いていた。


鉄の髭「クォーツ!迎えに来た!」


 スポットライトを浴びた鉄の髭は、普通に見えるより一層荒々しいオーラを醸し出している。


「ふざけんな!何だてめぇは」


鉄の髭「我は鉄の髭。ここより遥か離れた海を翔ける者。」


「貴様もこいつの仲間か!」



 しかし、鉄の髭がぎらりと仮面の下の眼光を男に飛ばすと、その眼力に力を吸い取られたように、男はスポットライトの外へ下がっていった。





鉄の髭「女王陛下からのご依頼により、クォーツ・クリスティア、貴方をお迎えにあがりました。」


 儀礼的に膝を着いて頭を下げる鉄の髭。


クォーツ「そうですか………。」


鉄の髭「久しぶりだな。おやっさん

おやっさん「おぉ。待ちくたびれたぞ。お前さんも食べていくかい?今日はスペシャルメニューだ」

鉄の髭「いや、やめておこう。私はこのおてんばを迎えに来たのだ。」

おやっさん「ほう」


 背中越しに語る二人の会話を聞きつつ、敢えて空気を読まずに茉莉香は突っ込んだ。


茉莉香「ちょっと、いいですか!」

クォーツ「………?」

鉄の髭「………。」


茉莉香「ごほん。」


 会議場にはおやっさんを含め、茉莉香、鉄の髭、クォーツがスポットライトで照らされている。








茉莉香「あなた、何様ですか?」


















・・・・・


茉莉香「クォーツさんはなんとなくわかります。何はともあれ、私たちが気に入らないみたいですから…。だから海賊殲滅?来るなら来いです。―――だけどあなたは?」


 ぎらり。と鋭い視線を、茉莉香は鉄の髭に飛ばした。


茉莉香「あなたは私たちの敵ですか?味方ですか?」


 仮面の下からじっと茉莉香の眼を見たまま、鉄の髭は微動だにしない。しばらく続いた沈黙を破って、鉄の髭は語りだした。


鉄の髭「宇宙の果て」

茉莉香「え〜―?」

鉄の髭「果てしない先を見据える人間は、一人では足りない。より多きの人々が目指すからこそ、宇宙の果てに、いつか見えん―――――。弁天丸船長加藤茉莉香、お前は何を見つめる?」




 まるでナレーションのように鉄の髭はそう言った。言葉の真意を探りながら、茉莉香が答えに迷っているうちに、鉄の髭はクォーツを引き連れて会議場を出て行った。








・・・






海明星、新奥浜市、名門白鳳女学院、中庭。


昼休み。



マミ「今頃茉莉香はなんとか会議かな」

サーシャ「グリューエルの話だと、どうやら無事に海賊の巣に着いたみたいよ?」

真希「きっと茉莉香の事だから、男どもを前にバーンとやっちゃってるんじゃない?バーンと!」

アスタ「何よバーンって。」

サーシャ「まぁ、何はともあれ、私たちは留守番をきちんとしないとねー。」

真希「うん」

アスタ「そうだね」



マミ「み〜んな、うまくいくといいね。」









 宇宙の果てで何思う。海賊と、女子高生と、その狭間で。






・・・・・・





「ここは海賊の天国、せいぜい怒鳴り合い、話し合うがいい!!ただし、メシは零すな!広い宇宙、食事は宝だ!!」


 マンカンゼンセキ。かつて王家の者があらゆる宮廷料理を揃えて晩餐にした事がその起源となる。香ばしい匂いが一気に会議場を包み込み、海賊たちの視線はテーブルの上の豪華に彩られた料理の数々に向けられた。



ケンジョー「さぁて、始めようか。とは言うものの、一人どさくさに紛れて消えちまったな。どうする?」

茉莉香「あ」

カチュア「いいんじゃないかい?馬鹿憎にはいいクスリかもね」

「痛い目にもあわんとな」






・・・




 海賊の巣。パラベラム号が停めてある中継所まで、鉄の髭とその部下たちに囲まれてクォーツは会議場を後にした。


クォーツ「海賊が海賊をお出迎え?よくもそんな依頼を引き受けたわね。」

鉄の髭「女王陛下からの依頼だ」

クォーツ「機先を制するつもりが加藤茉莉香に仕切られるし、あなたが美味しいところを持ってくし、私のメンツ丸つぶれだわ」

鉄の髭「メンツより君の無事だ。」


 前を見据えたまま鉄の髭は言う。


クォーツ「加藤茉莉香も似たような事やってたわね。ストーンて海賊の護衛の仕事。」


「キャプテン。」

鉄の髭「ん――」


 鉄の髭の後ろについていた男が耳打ちする。その途端、柱の影から先ほどの船長とその部下が銃を構えてにじり寄ってきた。



「へへへ………。」


クォーツ「やっぱり、辺境の海賊は卑怯ね。」


鉄の髭「どうするつもりだ?」



「知れた事よ。女王か帝国か知らねぇが、お前らを殺せば俺が安泰だ。」


クォーツ「本当にそう思うの?」


「当たり前だ―――――――っ!!」


 刹那。男が引き金を引く寸前でビームが男の銃を射抜いた。異常加熱された銃は、内部でさらに光線粒子を融熱させ、高温度に耐え切れなくなってドロっと溶け出す。持てなくなった銃を腕から離してその銃が床に落ちた時には残りの部下の銃も一人残らず打ち抜かれた。そして最後に、ドクロのマントを羽織った鉄の髭の部下の一人にアッパーカットを貰って、男は倒れた。




「キャプテーーーン!!!!」





梨理香「おらお前ら!動くんじゃないよ!!」


 扱い慣れたブラスター銃をいとも簡単に掲げて、梨理香は男たちを威圧した。


梨理香「やれやれ。お出向かえのお出向かえかい……。」


鉄の髭「済まない。」

梨理香「へ。」


 久々の海賊稼業で普段沈めていた荒っぽさをここに来て発散していた梨理香は、茉莉香には見せない顔で鉄の髭に笑った。


鉄の髭「どうだ?正式に船員(クルー)として―――」

梨理香「その口で言うのかい?今回は特別サービスなんだから」




「ぐあ!」


 二人が話す反対側で、影からクォーツを狙う男を張り倒したのは、ケインだった。


ケイン「殺し合い厳禁。」





・・・・・




ケイン「すいません、バレました」

鉄の髭「そうか。」


 ケインとミーサは、クォーツと鉄の髭の前に出た。


ミーサ「鉄の髭さん、うちのケインもご厄介になってるそうで。ありがとうございます。」

梨理香「よ、ミーサ!」


 そんな鉄の髭の肩に寄りかかってブラスターを構えた梨理香は、まるで街中で偶然出会ったように軽く挨拶した。


ミーサ「よ!じゃないわよ……何やってんのよ、こんなところで」

梨理香「何って新しい仕事よ」

ミーサ「茉莉香には言ってあるの?」

梨理香「言ったわよ、転職する―――って。あの子も応援してくれてるわ」


ミーサ「ったく―――とりあえず、そこのお兄さん?」


 ミーサは先ほど男にアッパーカットを入れた鉄の髭の部下の一人を見た。



???「弟です。」


 男は着けていた仮面を外した。途端に寝癖のような前髪がぴょんとはねる。その顔はどうみても弁天丸操舵手のケイン・マクドゥガルである。


ミーサ「ケイン、弟さんが乗務した分、日割りであんたの給料から引いとくから。」

ケイン「ええーー!?」

ミーサ「で、弟さんには遡って、無断で弁天丸に乗船したペナルティを支払って貰います。」

マクドゥガル弟「ええ?!」

ミーサ「請求はパラベラム号に送るので…。」






ミーサ「で、何を知りたかったのですか?」

鉄の髭「………。」

ミーサ「双子の操舵士まで使って知りたかったのは何だったんですか?」


 またしばらく間をおいて、そしてゆっくりと鉄の髭は口を開く。


鉄の髭「………。この界隈の海賊たちは大きな帰路に立つ事になる。真の海賊になるのか、免状を大事に押し戴く営業のままの海賊でいるのか……。」


 どこか遠くを見るように、鉄の髭は仮面の下の視線を先ほどの会議場の風景に向けていた。


鉄の髭「良い眼を………していたな――――――。新たな流れ見届けた。辺境であのような瞳の輝き、見る事ができたのは、まさに行幸!!」


 鉄の髭の物言いに思わず吹き出す梨理香。そう。この男、会話が成立しない。


ミーサ「娘も大変よね。親に色んな事押し付けられて。」


梨理香「あの子が選んだ事さ―――。ここまでやってのけるとは思ってなかったけど。」




・・・





二次会。






 ガリガリガリ。ガリガリガリ。




 それはいつの時代だったろうか。



 コオリ。という水を零度以下で凍らせた物質がある。



 わざわざ水を凍らせるのは、それ自体で冷却効果を担うためだ。しかし、今の保温技術をもってすればわざわざ水を凍らせた物質をドリンクに混ぜたりせずともいつまでも冷えたままで飲む事は可能である。なので、まさかこの広い宇宙で、水を固めただけの氷をそのまま食べる。という料理がある事を知っているものは、惑星の数よりずっと少ない。




 ガリガリガリ。おやっさんは手車を回す。それは、その氷菓を作るためだけに存在した特殊な大昔の調理器具だった。


 手車で回した回転は歯車で伝わり、氷に固定された柱を回転させる。回りだす氷は、押し付けられた刃で少しずつ削られ、結晶のように細かくなって下に落ちていく。


 ひとつひとつの器にある程度削った氷を蓄え、その上にシロップをかける。ただ、それだけのシンプルな料理だった。







茉莉香「うわ〜〜〜!!!!」


 しゃくしゃくしゃく。海賊会議の二次会は、おやっさんの店で船長だけで行われた。一人ひとつ出された伝説の氷菓子を、歴戦の海賊は舌鼓を打ってガツガツ食べた。


銀河帝国中の様々な草花を蜜に漬けた500年ものの甘露。これこそが海賊会議を締めくくった我が親父自慢のデザートじゃよ!って聞いてないな!」




 金属スプーンがガラス製の器にあたるかちゃかちゃした音と、氷を頬張るしゃくしゃくした食感だけがしばし部屋に木霊した。伝説の味に全員が全力で食べていた。



「至高の味。荒くれ者の心を甘く溶かす…。」

『何年ぶりかの〜〜〜』

『そりゃお前、前の会議依頼じゃろ〜〜〜?』

『前の会議っていつだっけ〜〜〜?』

『忘れた!!』




ケンジョー「で、キャプテンマリカ。」

茉莉香「はい」

カチュア「日時を決めるのはいいけど、誰が作戦の指揮をとるの?」


 真紅のドレスを纏った海賊船ビラコーチャ号の女海賊、カチュアが茉莉香に訊いた。


茉莉香「指揮というか、この場合緒戦の電子戦の取りまとめでを誰が行うかって事ですよね?―――――という事は」






・・・




 乗組員が新たか下がった会議場で、各海賊船の電子戦担当だけが残っていた。



クーリエ「えー。どうも。弁天丸電子戦担当のクーリエです。」


 Tシャツにドテラサンダルにビン底眼鏡。髪もぐるっと巻き上げたクーリエは、先ほどまでの外回りモードをすっかりオフにしてしまっていた。


クーリエ「今回の作戦で電子戦の取りまとめをする事になりましたあ。どうぞ、よろしくお願いしますう。あ、えーっと、誰が偉い云々じゃなくて、実際にグランド・クロスと戦闘経験があるのが弁天丸だけという事ですので、あしからずう。」



「ブラボー!!」


 事務的に淡々と語るクーリエ。しかし、その言葉に反して各海賊船の電子戦担当者はクーリエに熱く賛同した。


「頑張りましょう!!」

「宜しくお願いいたしますクーリエさん!!」

「みんな、クーリエさんを盛り立てていこう!!」





 オリジナルセブンの海賊船弁天丸のクーリエ。その高い電子戦技術は、界隈の電子戦担当海賊の憧れでもあった。


茉莉香「ふぇ…?」






・・・






クーリエ「あーん!―――。むぐむぐ……。」


茉莉香「おっかしいなぁ。外回りの格好の方が絶対男性受けすると思ったのにーー」


 いつもの格好で電子戦席に着くクーリエは、いつものように菓子を頬張る。さきほどまでの姿とはまるで別人であり、またしても双子説が浮上しても可笑しくない。


クーリエ「電子戦担当者は普段から真実と向き合っているのデス」


茉莉香「ははは…。で、どう?弁天丸は?」


 茉莉香の答えにモニターで表示するクーリエ。そのままパネルをたたん、と叩いた。


クーリエ「はいはーい。以前よりもレーダー/センサーを二割ほど強化。出力系もスラスターの性能を中心にかなり強化しているから、ケインだったらかなりやんちゃな飛び方ができるんじゃないでしょうか。」


茉莉香「やんちゃってどんな?」


ケイン「まぁ、乞うご期待ってところですね。」


 ちょうどブリッジに入ってきたケインが言った。前髪が跳ねてない弁天丸のケインである。


クーリエ「あ、やんちゃだ」

ケイン「ふ――――。」


 何かを思い出したように、ケインが顔を緩ませた。


茉莉香「どうしたの?」





ケイン「いや、今回の日時決定が船長の試験の日取りから逆算したものと知ったら、他の海賊船の面々はどんな顔をするかなーと思いまして。」

茉莉香「げ」

ケイン「それは戦いに勝ってから言った方がいいですね。良い意味で笑い話になる。」


茉莉香「いやいやいや!それは弁天丸の機密事項と云う事で。」


クーリエ「あ、そろそろ通信が始まる時間じゃないですか?」 


 思い出したようにクーリエが言った。



茉莉香「あっはは…それもちょっとなー……。」







 海賊会議での料理の後片付けを一通り済ませた後、おやっさんは調理室に極秘に隠されていた海賊の通信機を取り出した。


 専用チャンネルを開いて、海賊にしか聞こえない歌をオンラインで流す。


クォーツはルカのアンドロイドを使って、海賊の歌のデータは知っている。という事で、日時と場所を支持する果たし状を、茉莉香の意見で海賊の歌に隠して発信する事になった。



 元々あった歌は海賊の巣までの座標を示すものであり、新たなメッセージをそこに組み込むために茉莉香はチアキを道連れにして歌を新しく撮り下ろした。


ケンジョー「いいねぇ〜、どうせ時間と場所はわかってるんだ。艦内、めいっぱい上げて流しまくれ!」

「へい!」



 そういって通信担当がバルバルーサ艦内放送の音量を最大まで上げて、船長の愛娘の声を自慢するが如く流していた。




 一方、茉莉香と共に海賊の歌を歌った本人は、自室でふとんを被っていた。




チアキ「親父……ぶっ殺す!」




 どこにあったかレコーディングスタジオで海賊の歌NEWVer.を収録。それにしてもこのチアキちゃん、やっぱりノリノリである




 なぜあそこでウィンクしてしまったのだろう。何にでも成りきる自分のキャラを思い返して悲鳴を上げるチアキであった。



茉莉香「うんうん、チアキちゃん可愛いな〜……。データ確認、歌だけ聞いててもしょうがないでしょ?」


クーリエ「あぁ、そうですねえ。」


 クーリエは、確認のために流されている海賊の歌NEW Ver.を解凍、解析した。


『果たし状 機動戦艦グロンドクロス号に告げる。時間は午後零時、場所は地図参照。よろしく!! 海賊船弁天丸船長 加藤茉莉香 そして私掠船免状をいただく海賊一同、よろしく!!』



 目には目を、相手が海賊ならば必ずのってくる。結果は通信を始めてすぐ、茉莉香の読み通りとなる。


クーリエ「あちらからの返事のようですねえ。解析しますう。」


 同じ周波数で別の波形をキャッチした弁天丸は、同じアルゴリズムでクォーツの暗号を解析した。律儀にも、あっちも歌に合わせた暗号通信で返答してきた。






クーリエ『了解した。こちらこそ楽しみにしている。楽しすぎてさっきから大笑い グランド・クロス艦長 クォーツ・クリスティア』




 返答文の左下のモニターで、あかんべぇをしている添付ファイル付きでクーリエは読み上げた。


茉莉香「うっわ〜、やっぱり人悪。――――でも、そうでなくっちゃね!」



 クォーツの返信を合図に、海賊艦隊は一斉に巣のドックから発進した。二度目の戦闘でダメージを追った弁天丸は大幅に船体をチューンナップ。事前に通信系とスラスターを強化する事で持ち前の小回りと電子機能を最大限まで生かしたフル装備は茉莉香の発案である。


 ここまで見越していたのか、たう星系から集った歴戦の海賊船を引き連れて、弁天丸はグランド・クロス号を迎え撃つべく指定の座標に進路を取った。




三代目「出力安定、まさに絶好調!」

百眼「センサーも好調!」

シュニッツァー「戦闘システムも問題なし」







茉莉香「海賊の魂、見せてやりましょう!!」


「「「「「おう!!」」」」」




 舞台は用意した、準備は整った。気合いと度胸。真の海賊が営業か。海賊の命運を賭けた戦いが、いよいよ始まろうとしていた。













ニコtakahawkさんよりLOST CHILD TVsize










次回、最終回「そして、海賊は行く」





















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