モーレツ宇宙海賊第十五話「密航出航大跳躍」
宇宙空間においては、日々の活動を円滑にするために、様々なシステムや組織が存在する。海賊やそれをサポートする保険組合もそのひとつである。独立戦争、そして銀河帝国による併合を経て、時代は波乱から安定へと流れる。今や保険会社と海賊は一蓮托生なのであった・・・。
そして・・・。
弁天丸格納庫の生態コンテナから逃げ出した猫猿が持っていた強力な宇宙風邪が原因で、茉莉香を除く弁天丸の乗組員は全員隔離される事になる。まともに仕事ができない中、独立戦争から更新されてきた海賊免許「私掠船免状」はその海賊行為を50日行わないと失効してしまい、海賊行為が違法となってしまう。弁天丸の存続を危ぶみ、茉莉香は中継ステーションで一時的に海賊行為が行なえる人員を探すが、大した手応えは無かった。そんな時、ステーションで出会ったチアキに、茉莉香の学校のヨット部員を勧められ・・・。
激烈、炸裂、強烈、破裂、爆裂、モーレツ宇宙海賊、第15話「密航出航大跳躍」
ケイン「青短!・・・上がりだな!」
牡丹、菊、紅葉の上に紫色の札が描かれた3枚の絵札を景気よく床に叩きつけるケイン。
「「「えぇーーー」」」
百眼「な・・・まじかよ!」
クーリエ「あーあ、またケインの一人勝ちかぁ・・・・。」
三代目「ちきしょー!」
ケイン「これでスコッチのボトルキープだな。」
現在、病院船で療養中の弁天丸乗組員。隔離と言っても感染力が強い風邪なだけであり、症状さえ収まれば血の気の多い海賊には、狭い箱部屋なのである。
クーリエ「ねぇミーサ?そろそろ茉莉香ちゃんに通信入れなくていいのお?」
ミーサ「今日からヨット部の練習航海なんですって。」
ベッドの上で女性向けファッション雑誌を見ながらミーサは答えた。
百眼「練習航海?」
ミーサ「えぇ。突然決まったとかで」
シュニッツァー「・・・まぁ、宇宙船(ふね)に乗っている方が勘が鈍らなくていいかもな。」
シュニッツァーは、大きな巨体には手の平程小さい本を手に持っていた。
三代目「あーあ、俺も宇宙(そら)に出てぇよー、こんな所にいつまでも居たら体鈍っちまう」
クーリエ「後ちょっとだから我慢しなよ。」
ルカ「ちょっとじゃないかも。」
「「え?」」
格好は他の乗組員と同じ病院船内専用の院服だが、眼帯に水晶といつものスタイルはそのままに航法士のルカがぼそりと呟く。
ケイン「だけど、航海士の免許はどうしたんだ?新しい顧問でも入ったのか?」
白凰女学院には、専用の練習船「オデット二世」がある。ただし、大型宇宙船は宇宙航行の際、その規定によって航海士免許、星間船舶免許を持った人員が宇宙船に乗り込まなければいけない。以前練習航海に出た際、当時は共に白凰女学院に茉莉香の護衛で赴任していたケインとミーサが搭乗したために航海許可が降りたのだ。
ミーサ「さぁ・・・そこまでは。まぁ茉莉香も持ってるし、一応大丈夫でしょ。」
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『こちら、海明星中継ステーション管制局。オデット二世号の出航を許可します。』
ケイン「ありがとうございます。中継ステーションに平穏な日々が続きますように」
『そちらも良い旅を。マクドゥガル船長―――――』
モニターの画像通信が終わると同時に、ヨット部部長のリンは自前のヘッドセットを外した。
リン「出たぜ、出航許可!」
「「「「「「おぉーーーーー」」」」」」
六角形の形に取り囲むオデット二世のブリッジに座ったヨット部員たちから歓声が上がる。
茉莉香「お見事です部長。管制局に全く疑われなかったですね。」
モニターには、淡々と自己紹介をするケインの映像がリピートされている。
「すごーい。ダミーとは思えませんよね。」
「さっすが先輩!クラッキングのおリン」
リン「そこ!変なあだ名付けんな!」
結局新しい顧問も船舶免許を持った人員も無しに宇宙に出るためにヨット部は少々無茶をした。管制局との通信で船長確認をする際に前回ケインが乗り込んだ映像を自分に被せ、リンがしゃべった通りにケインの音声で変換して映像に出すという完全なイカサマをやってのけたのである。
リン「では、これよりオデット二世の練習航海を始める。とはいえ、前回とは違い、海賊業務を行うという指名もある。各自気を引き締めて行動して欲しい。そして、指揮は全て弁天丸船長である加藤茉莉香に一任する。みんなもそのつもりで、いいね。」
「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」」
茉莉香「よろしくお願いします。」
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白凰女学院高等部の練習船「オデット二世」は太陽帆船(ソーラーセイラー)である。九本のマストを展開し、大洋の風を受ける地上のヨットと同じ要領で太陽から太陽光を受けて進むのである。ろくな推進剤も無しにゆっくり進むので今となっては実用的とは言えないがそれでも運用コストは他の宇宙船より少なくてすむ。
前回引っかかって船外作業を余儀なくされたが、今回のマスト展開作業は滞りなく進んだ。三方向に広がる巨大なパネルマストが太陽光を受けて輝きを増す。
チアキ「航路の確認をします。」
チアキはブリッジ中央のメインスクリーンにたう星系の概略図を表示した。オデット二世の現在地、太陽、その他周辺惑星の大まかな位置座標がそこに表示される。
チアキ「これが管制局に提出した、オデット二世の飛行計画(フライトプラン)。海明星ラグランジェ点にある星系軍の錨泊空域をかすめ、外惑星軌道に向かう予定になっています。でも、本当の計画はこの錨泊空域。ここに停泊する弁天丸に向かい、一同が乗り込む事。これがオデット二世の第一目標になります。」
リン「連絡艇(ランチ)の発信地点は最接近地点でいいのか?」
茉莉香「いえ、自動衛星に見つからないように行きたいのでその前に出ましょう」
その時、ブリッジにアラームが鳴り響く。
「!?」
「茉莉香、格納庫から密航者だって!」
茉莉香「えぇ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
格納庫から連れてきたのは、すっかり見慣れた社交スマイルの姉とムッとした表情の妹のセレニティ姉妹だった。
茉莉香「ったくー。相変わらずお姫様の自覚無いんだからー。」
グリューエル「だって、その前にヨット部員ですから。」
茉莉香「せっかく気を利かせて練習航海の日取りを教えなかったのに〜。」
グリュンヒルデ「わたくし達は、自分の星の王位にそれほど執着がありません。姉上は茉莉香様のお役に立ちたいのです。なによりいざという時、わたくし達は色々と“使え”ますよ?船長。」
茉莉香「あはは・・・。」
チアキ「話まとまったなら、さっさと連絡艇(ランチ)の発進準備に入るわよ。」
茉莉香「チアキちゃん・・・まさか二人が乗り込むの手伝った!?」
チアキ「うん。人数多い方がいいし。」
茉莉香「うー・・・先に言ってよー。」
ただでさえ一般人を海賊船に乗せる事になった上に、正統王家のお姫様を2人も抱えて海賊をやらなきゃいけない。茉莉香は自分の心配毎がどんどん積もり積もっていくのをひしひしと感じていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
茉莉香達は、適当なこじつけで、とりあえず連絡艇をオデット二世につぎ込んでいた。今回は秘密裏に弁天丸に乗り込む算段なので、部員の当面の食料や生活物資を詰めるだけ詰めた連絡艇として準備していた。
全員宇宙服に着替え、弁天丸の停泊地点が近づく中、リンはオデット二世の自動航行プログラムをずっと調整していた。
茉莉香「部長、そろそろ」
リン「後少し。違うフォーマットを走らせてもいいんだけど、オデット二世のプログラムは多様性と生存性を重視してるから相性が悪い。変な癖はつけたく無いしな。」
ドッグの隅で二人は端末の光を囲む。
茉莉香「百年後の後輩にも残さないといけないですしね。」
リン「・・・・・・・・ジェニーと同じ事、言うんだな」
茉莉香「ふぇ?」
リン「・・・・・・よし、これで最悪誰もここに残らなくても、自動運行可能だ。行こう。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうして連絡艇で宇宙へ出る。星々の煌きの中、海明星の青い光を遠くに見る。宇宙にぽつんと飛んでいる。巨大な宇宙船を前に茉莉香達は思いを馳せる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
百眼「おや?」
ケイン「どうした?」
病室で百眼のパソコン端末が自動で動く。
百眼「弁天丸にお客さんだ。画面を弁天丸側に切り替えてっとー。」
慣れた手つきで自分の端末のモニターと弁天丸の船外カメラをリンクする。モニター越しに映ったのは、連絡艇に無理やり乗り込んだ見覚えのある宇宙服を着た一行だった。
ケイン「白凰女学院のヨット部員!?」
百眼「え?」
クーリエ「茉莉香ちゃんがヨット部員と弁天丸へ向かってるって事?」
ルカ「乗り込むつもりなのかも。」
三代目「なんでまた?」
ミーサ「海賊免許よ。」
クーリエ「ミーサ?」
病院船でみんな院服姿であったが、ミーサは着替えて部屋に戻ってきた。いつもの格好に白衣を纏って白凰女学院の保険医として振舞っていた時の格好だった。
ルカ「その服持ち込み?」
ミーサ「この方が動き回るのに便利だから。で?今そこで情報ゲットしてきたの」
シュニッツァー「情報?」
ミーサ「看護師がおしゃべりしてたんだけど、私たちの隔離期間、後2週間伸びるみたい。」
「「「えぇ!?」」」
ルカ「やっぱり・・・」
三代目「どーすんだよ!ますます体鈍っちまう!」
クーリエ「それより、海賊業の方が大変だよ!先方に色々断らないと」
ケイン「いや・・・このまま2週間、弁天丸が動かせなかったら、“私掠船免状”が剥奪される」
ミーサ「そういう事。」
クーリエ「じゃあ、やっぱり茉莉香ちゃんは弁天丸の海賊免許を守るために・・・。」
険しい顔のままミーサは頷く。恐らく白衣姿であちこち回って院内を詮索していたのだろう。乗組員の不安は一点にモニター向こうの女子高生達に向けられた。
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茉莉香「うっそ!?ミーサからの定時通信?どうしよ・・・」
連絡艇の上でのんびりしていた茉莉香の通信にミーサからの弁天丸定時連絡が入る。海賊という商売は敵に狙われる事も少なくない。茉莉香は女子高生として学校に通う事をしているので、海賊になってからは、毎日弁天丸の誰かと定時に暗号通信で連絡を入れる事になっている。
グリューエル「出た方がよろしいんじゃないでしょうか。かえって怪しまれますよ。」
茉莉香「そ・・そうね。」
一瞬ためらいつつも瞬時に自分のいつものテンションに戻して、茉莉香は応答ボタンを押した。
茉莉香「もしもし、茉莉香です!」
ミーサ『あー茉莉香―?えぇっと、今日は練習航海だっけ?』
茉莉香「あぁ!はい、今船外活動の実習中で・・・。」
ミーサ『あら?そうだったの。』
しかしミーサは百眼のモニター越しに、弁天丸に向かっている茉莉香達の映像をばっちり見ながら茉莉香に話しかけている。
茉莉香「そ、そっちの様子はどう?」
ミーサ『症状も治まってピンピンしてるわ。そろそろ脱走でもしようかなーって。』
宇宙服のヘルメットに直接ミーサの顔がモニターとして映る。
茉莉香「だぁめ!しっかり治して!」
ミーサ『わかったわよ、茉莉香も頑張り過ぎないでね。前の航海みたいにすぐには行けないんだから。ま、心配はしてないけど・・・。死なない程度に適当にやりなさい。』
茉莉香「うん・・・みんなに お大事に って伝えて。」
ミーサ『しっかりね、船長。』
茉莉香「ふー・・・。」
グリューエル「何も言わないんですね・・・。」
茉莉香「どこまで誤魔化せるかわからないけど、余計な心配かけたくないから。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ミーサはなにごともなくヘッドセットを取った。
ケイン「誘導尋問でもかけるかと思ったが・・・」
ミーサ「あーらどうして?船長が決めてやってる事だもの。私たちに黙ってるって事は、何か意図があるんだろうし。」
シュニッツァー「このまま船長とヨット部に、弁天丸を任せるつもりか?」
三代目「無茶だ、素人じゃ扱えねぇ!」
弁天丸は120年前の独立戦争時代から続く戦艦を海賊用に改良した海賊船である。船員によって時代時代に改造を施してきたが、それでも相当な老朽船ではあった。そのため、部外者には絶対に扱えないようなオリジナルなカスタマイズがあちこちの部分で施されていた。
クーリエ「確かにねぇ・・・うちの電子システムも特殊だからなぁ・・・・。」
百眼「マニュアルも無いのに適当に運転されたら・・・。」
ルカ「電源入れた瞬間、壊れたりして。」
「「「「「え!?」」」」」
ぼそりと物騒な事を言うルカにぎくりとする一同。その中で一人、ぽんと端末に手を乗せて微笑むミーサ。
ミーサ「じゃあ、作りましょう。マニュアル」
「「「えぇ?」」」
ミーサ「素人でも扱えるようになる、“虎の巻”を」
「・・・・・。」
一瞬部屋に沈黙が流れた後、くつろいでいたそれぞれが、ため息混じりに立ち上がった。
百眼「まぁ、かわいい茉莉香お嬢様のためなら、しょうがねぇか!」
ケイン「うちの生徒達もな!」
クーリエ「変なふうに触られるよりはいいもんね。」
三代目「よっしゃ!俺もパソコン持ってくる!」
ミーサ「間に合うといいけど・・・。」
言っては見たものの、連絡艇は既に弁天丸を視界に取られていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方、着々と密航計画を進行中のヨット部メンバー。連絡艇は、星系軍の錨泊空域に停泊中の弁天丸が見えてきたところで、搬入準備に入った。
「大きいね〜」
「うちの船より大きく見える〜」
茉莉香「全長は変わらないんだけどね。」
ゆっくり連絡艇を90度回転して弁天丸に横付けするように微調整する。
茉莉香「先に入って立ち上げます。」
そういって連絡艇を蹴って弁天丸に乗り移った茉莉香は、乗組員用の船外通路のハッチのところに、グリューエルから受け取った“船長IDリング”を船体に飾した。これがなければ弁天丸に入る事もできなかったが、通路のハッチはリングの反応を読み取ってセキュリティを解除し、ハッチを開いた。
そのまま誰もいない無重力の船内を通って茉莉香は、見慣れているのに誰もいないブリッジに出た。もちろん普段の弁天丸のブリッジは交替制でスケジュールが組まれているが、茉莉香がブリッジにいるのは常に仕事や営業中の作戦行動中である。そのため、ブリッジに誰もいない光景は虚しさと共に自分の小ささも実感するには十分だった。一瞬呆気に取られた茉莉香は、思い出したように主機を立ち上げ、搬入ハッチを開いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方、病院船内では、大きな体を丸めて必死にパソコン端末にマニュアル文を打ち込むブリッジクルーの姿が。
百眼「げ!お嬢様方、ぞろぞろと船内に入ってきたぜ!」
クーリエ「スピードアーーーップ!!」
ダダダダダ・・・。弁天丸の装備は基本的に古い型が多い。軍艦や資金が潤沢な海賊ならばもっと性能の良いものを揃えるのだろうが、弁天丸では”ほどほどに手動”がモットーなので、体が鈍らない程度に人間の整備や調整が必要な装備にしている。それでも、最新の設備を備えた宇宙船と対等やり会うだけの確かな腕とスタッフの技術がそこにあるのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「「「「「「「「「うわーーーー!!!」」」」」」」」」」
一方、本物の海賊船船内に乗り込んだヨット部一同。初めて乗り込んだ海賊船という事で部員達のテンションは高い。
リン「これが海賊の通信席かぁー・・・・。電子戦やったら楽しそーだなぁ・・・」
茉莉香「やりません!」
「茉莉香―、この席何?」
茉莉香「あぁ!それは!」
茉莉香が止めるより早く、真希がシュニッツァーの席で黒と黄色の縞柄に囲まれた海賊マーク入りの物々しいボタンをうっかり押してしまう。
「え?」
茉莉香「え?」
「「え??」」
武器装甲を指示するシュニッツァーの席から受けた信号は、そのまま急速エネルギーチャージを開始。色々な兵装手順をすっ飛ばして直接火を入れた主砲は、何の目標も定まらないまま、戦慄が走る震動をブリッジに伝えながら中空の宇宙目掛けて極太のビームを派手に3本平行に発射した。
「・・・・・・・・・・・。」
グリューエル「まぁ綺麗。」
チアキ「ちょっとハラマキ!軍に見つかったらどうすんのよ!!」
「ご・・・ごめーん。つい押しちゃった・・。」
茉莉香「もう・・・みんな勝手にいじっちゃだめだからね・・・。」
茉莉香は自分の胃が確実にキリキリ言っているのが分かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シュニッツァー「ぐ・・・・・・」
ケイン「あーあーあ。何やってんだよおい。」
ミーサ「マニュアル急ぎましょ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
茉莉香「さて。乗り込んだからには、動かさないと・・・・。とはいえ、発進の手順って正確には覚えてないんだよねぇ・・・。ちら?」
期待を込めてふと機関席に座っているチアキを見る。
茉莉香「バルバルーサの発進と同じって事は・・・」
チアキ「あるわけないでしょ」
茉莉香「ははは、だよねー。」
チアキ「マニュアルは?」
茉莉香「探せばあると思うけど・・・・」
リンはクーリエの電子戦席に座って色々とヘルプを表示させている。
リン「だいぶ改造してあるからなー。正規のマニュアルは役にたたないだろうな。」
茉莉香「ですよねー。・・・・・途方に暮れていてもしょうがないんで、やってみましょう!」
「転換炉の出力コントロールを低推進力で。様子を見ながら速度を上げてください。進路は外惑星軌道。とにかく、たう星を離れましょう。」
「「「「「「「「「「「了解!!!」」」」」」」」」」
・・・・・・・・・・・病院・・・・・・・・・・・・・・
ケイン「まずい!発進するつもりだ!」
三代目「あぁ!低い推進力じゃ推進剤が安定しないのに煤や不純物が燃焼系に取り付いて掃除が大変だって今書いたところだぞ!」
ミーサ「みんな後どれぐらいでできる?」
ルカ「5分」
百眼「それまで、弁天丸が持つといいけどな!」
クーリエ「2分でなんとかするわよ!!」
・・・・・・・・・・弁天丸・・・・・・・・・・・・・・・
茉莉香「席に着いてない人は衝撃に気をつけて。では、発進!!」
出力ペダルを思いっきり踏み込む。後ろへぐんと下がる衝撃を想定していた茉莉香だが、しかし、少子抜けた音がエンジンで鳴った後、ガタガタと船内が震えだしてそのままブリッジはブラックアウトしてしまった。
茉莉香「・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
・・・・・・・・
三代目「掃除が・・・・。」
・・・・・・・・
茉莉香「おっかしいなぁ・・・」
「もういっかいやってみるぅ?」
チアキ「闇雲に試しても同じだと思うけど・・・。」
「茉莉香ぁ、どうする?」
茉莉香「えーっと・・・。」
グリューエル「茉莉香さん!」
茉莉香「はい!」
険しい顔で茉莉香に声をかけるグリューエル。
グリューエル「こういう時は・・・・」
そういうとグリュンヒルデは、連絡艇に積み込んだ食料ボックスの中のひとつをブリッジまで持ってきて開いた。その中身は色とりどりの甘い匂いを漂わせるランプ館のスイーツだった。
「「「「「「「「「「うわーーーーーーーー」」」」」」」」」
グリューエル「甘いものを食べながら考えましょう!」
満面の笑みで自分の計画が効果てき面だという事実感しながらグリューエルは茉莉香に言った。
グリューエル「我が国の格言に悩んだ時は甘いもの、というのがありますし。」
茉莉香「わざわざ買ってきたの?」
グリュンヒルデ「密航するからには差し入れが必要かと思いまして。」
茉莉香「あはは・・・」
当分我慢していたチョコパフェと思わぬ形で再会を果たし、至福の時間に浸っているチアキの横で、リンが茉莉香を呼び止めた。
リン「茉莉香、通信」
茉莉香「ほぇ?」
プリン片手にスプーン頬張って、特に何も考えずに船長席のディスプレイで応答すると、モニターの向こうからアフロ姿が視界に飛び込んできた。
ショウ『おや?おやつタイムかい?』
茉莉香「ぶ!ひ・・・ぴょうぴゃん!!・・・すす、すみません!」
ショウ『色々と苦労してるかと思ったんだが・・・・』
茉莉香「してますしてます、すーっごくしてます!」
ショウ『そうかぁ!!なら役立ちそうだぁ!』
茉莉香「?」
ショウ『いやぁ、昔の資料を見ていたら“弁天丸のマニュアル”が出てきた!いるかーい?』
願ってもないタイミングでやってきたチャンスに茉莉香は飛びついた。
茉莉香「いります!ください!」
ショウ『では、すぐに送信しよう』
「「「「「「「「「「「よろしくお願いしまーす!!」」」」」」」」」」」
ショウから送られてきた「よくわかる弁天丸操作マニュアル」によって、運行手順をゆっくり着実に設定していくヨット部員。
「なるほど〜こういうエンジンの作りだったんだー。」
リン「うおお!電子戦やりて〜〜〜」
「よし。茉莉香〜、打ち込み完了したよ〜」
「こっちもおっけー!」
チアキ「こちらも完了」
リン「こっちもおっけー」
グリューエル「大丈夫です。」
弁天丸に普段乗っている時と同じように、ブリッジクルーの全員の顔を確認して、それぞれの席での準備を確認を取る。
茉莉香「・・・・それじゃ改めて、発進!!」
再び出力ペダルをぐいっと踏む。今度はさっきよりはゆっくり慎重に。いつもの慣れた衝撃に確かな手応えを感じながら、弁天丸はゆっくり宇宙空間を発進した。
・・・・・・・・・・・・・病院・・・・・・・・・・・・・・・・
一方、マニュアル作成作業ですっかり虫の息になっている本家ブリッジクルー。
全員力なくもたれかかってシュニッツァーも熱気を上げて軽くオーバーヒートしていた。
ミーサ「間にあって良かったわね・・・・」
クーリエ「弁天丸が蹂躙されずに済んだ・・・」
百眼「おれ・・・もうだめ・・・。」
ケイン「これでやっと平和に花札を・・」
茉莉香『じゃあ今度は超光速跳躍やろ!!』
「「「「「ええええええ!!!!」」」」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
茉莉香「ちょっと難しいけど、海賊行為をするために相手の船まで飛ばなきゃいけないから、今のうちに練習しといた方がいいと思う。」
チアキ「なるほどね。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
百眼「おいおい!超光速跳躍なんてマシュアルに入れてないぞ!」
三代目「下手したらエンジンがいっちまう!?」
クーリエ「ど・・・どうすんの!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ケイン達の心配をよそに、無邪気に、真剣に事を進める一同。
リン「っかしいな。超光速跳躍のマニュアルは送られてないぞ。」
茉莉香「え?ないんですか?」
グリューエル「じゃあ保険会社に連絡して送って貰ったほうが・・・・」
その時、茉莉香が密かに恐れていた事態が現実としてアラームの警報音になる。
「大変です!星系軍の船がこちらに向かっています!」
中央のメインスクリーンに簡易マップが表示され、中心地点の弁天丸に2時の方向から近づく船影が映る。
チアキ「さっきのレーザーで気づかれたか、すぐに逃げないと不味いわよ!」
「急加速で突っ切るとか?」
「無理です。先ほど低推進力で発進したので推進剤が安定しません。」
慣れない宇宙船で想像だにしない状況にどよめくブリッジ。だけどただ一人、こういう状況を幾度となくくぐり抜けてきた茉莉香は、じっと状況を判断し、船長として加藤茉莉香から海賊キャプテン・マリカのスイッチを入れる。
グリューエル「茉莉香さん・・・。」
リン「茉莉香・・・。」
チアキ「・・・・。」
「・・・・・・・。」
茉莉香「飛ぼう!!」
・・・・・・・・・・院内・・・・・・・・
三代目「無茶な!!」
百眼「でも、このまま星系軍に捕まるのも面倒だぞ」
ミーサ「ああ言う時の茉莉香は何か持ってる。」
モニター越しに見つめるミーサもいつの間にか、海賊の目として自分の船長を見据える。
ミーサ「信じましょう。私たちの船長を」
・・・・・・・・・・・・・・
茉莉香「超光速跳躍の準備は、まず正確な現在地と座標を知る事、設定さえできれば後はコンピュータが自動で計算してくれるハズです・・・。次に飛行計画(フライトプラン)の設定。こちらも自動化されてるハズです・・・。」
超光速跳躍する際の衝撃に備えるため、宇宙空間を映していたブリッジの船内窓が閉じられる。
茉莉香「問題は、動力エンジンです。弁天丸には、“阿号(あごう)”“吽号(うんごう)”と呼ばれる二機の転換炉があるんだけど、三代目の話だとこれがかなり古くて、運転状態にムラがあるらしいの。特に“吽号”は出力を安定させにくいのよね。」
「なるほど。」
チアキ「ただでさえ、転換炉は複雑で厄介なのに、寿命切れのまま使ってるなんて・・・。」
茉莉香「まぁ、うちはスタッフが優秀ですから!」
ヤヨイ「エンジンの事はわかりました。とりあえず今回は急ぎですし、“阿号”だけ使用して飛ぶのが得策だと思います。」
茉莉香「そうね、それでいきましょう。」
・・・・・・・・・・・・・・
百眼「さすが船長!マニュアルなくてもイケるじゃねぇか!」
ミーサ「普段見てるんだから当然よ。」
ケイン「むしろ発進できなかった方が不思議だよ。」
三代目「頼むよ“阿号”〜〜いつも通り動いてくれよ〜〜!!」
ルカ「クーリエ、星系軍への通信妨害まだ?」
クーリエ「今やってる〜〜〜!!」
持ち前の端末三つを交互に操作して、遠隔で電子妨害をかけるクーリエ。
ケイン「来たぞ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
茉莉香「ケフェンス暗黒雲に座標を固定、行くわよ!!」
「「「「「「「「「「了解!!!!!」」」」」」」」」」
茉莉香「超光速跳躍!!」
何もない空間が歪んで亜空間が弁天丸の前に開く。超光速機関を持ったエンジンで空間に揺さぶりをかけ、別の空間へシフトする。空間内は宇宙空間よりも短い移動距離で、通常空間の何十倍もの距離を一気にジャンプできる。故に超光速跳躍である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「「「「「いやったああああああ!!!!!」」」」」」
・・・・・・・・・
「亜空間に入りました!」
「「「「「やったー!!!」」」」」
茉莉香「あぁ・・・良かったぁ・・・・」
「やったね茉莉香!」
チアキ「本当、何か持ってるわよね・・・。ん?どうしたの?」
初の大仕事の成功を素直に喜ぶ部員達。その隅で不思議そうにとある機械を見つめるセレニティ姉妹。
グリューエル「これはなんでしょう」
チアキ「あ。・・・・」
それが何か気づいたチアキは、力任せにケーブルごとその端末を引きちぎった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
途端、病院船内で弁天丸内部を見ていた百眼のモニターが砂嵐に変わった。
百眼「あ!」
シュニッツァー「ついに見つかったか。」
クーリエ「さっすがお姫様と海賊の娘。」
ミーサ「まぁこの調子なら、大丈夫でしょ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
チアキ「たぶん覗かれてたわね、乗組員達に」
グリューエル「あぁ、なるほど。ではあのマニュアルも?」
チアキ「茉莉香の沽券に関わるだろうから、秘密にしときましょ。」
グリューエル「そうですね・・・。」
茉莉香「みーんな!落ち着いたところでご飯にしない?」
「いいなー!何にする?」
「私カレーがいいな!」
「さんせーい!」
茉莉香「じゃあ、作りましょう」
宇宙を漂う海賊船。そこに乗り込むのは、強者揃いの女子高生。茉莉香は船長として、海賊営業を行なえるのか。次回へ続く。
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