【毎日更新】line walker ゲームプレイ日記

毎日欠かさず更新して約11年目・・・・・。FGOとホロライブ・ホロスターズ中心のブログです。

妖狐×僕SS 第11話「陽炎」




「まさに狐につままれたような顔ねぇ・・・。化かされるのは初めてかしら?」


 妖怪の先祖返りの家はどの家も栄えていた。

 始祖の再来とし大事に敬い育てる事で更なる繁栄を呼ぶ。


 というのが多くの解釈でそれとは違う裏解釈もあった。


 邪悪な妖怪で知られる「九尾の妖狐」の血を引く御狐神家では、その強大な力を持つ妖怪(先祖返り)を管理する事で家が持つとされていた。
 祀るように軟禁されるのだ。


 厳重な送り迎え付きで学校には行かせて貰えたがそれ以外はこの部屋の中が全てだった。その異常な環境に誰もが見てみぬふりをした。


 自分が持っているものは学校で学べる知識と生まれもった小賢しさと
 自分自身だけ。








 最初はメイドだった。



 彼女の心の隙間に入り込んだ。そこから枝を伸ばすように、より力を持つ女性へと躙り寄っていった。
 内側から変えていくしかない。自由になるためには。





「双熾、そろそろ出るわ」



 彼女に気に入られるのは簡単だった。子供もなく時と共に夫にも相手にされなくなった淋しいひと。女として扱えば良いだけ。時間やお金、そして自分。色々なものを持て余していたから。


 彼女のペットとしての自分を手に入れた。でもここで終わるつもりはない。もっと、本当の自由を。



1年後それは叶った。奥様に動向したパーティでそれは出会ったのだ。ずっと探していた御狐神家以上の力を持つ、正義感が強く、優しく面倒見の良い、暇で出しゃばりな女性に。






 彼女の名は、青鬼院菖蒲(しょうきいん あやめ)。そうして僕は彼女の息子である蜻蛉さまに出会った。



「今日から貴様は私の玩具だ!手始めに靴を舐めて貰おうか!(S)」

「はい(即答)」

「待て。貴様プライドは無いのか?」

「自尊心とは自分あってのものです蜻蛉さま。仰る通り僕は今日から貴方のもの、貴方無くして尊べる自分などありません。」

「驚いた。なんてつまらない男だ。」

「御狐神双熾(みけつかみ そうし)と申します。」




 自分で責任の取れる歳まで。本当の自由を手に入れるまで。





 それまではソツなく熟そう。やれるはずだ。装い、偽り、媚び、この身一つでやってきたのだから。





「これに良い感じに返事を書いておけ(S)」

「これは・・・白鬼院凛々蝶さまからのお手紙では・・・。よいのですか?」

「よい。手紙(M)など面倒だ、相手をしてやれ」




 蜻蛉さまの婚約者は「白鬼院」という青鬼院とは別の鬼の血を引く一族の女性。
 まだ会った事はないけれど、その内容や言葉遣い、文字から丁寧で繊細な女性という印象を持った。


 蜻蛉さまを装いつつ「良い感じの返事」というのは無理だ。(「私の性奴隷になれ(S)」とか書きそうだ。)「蜻蛉」として嘘にならない程度に美化して書かなくてはいけない。

 そうして自分の中で美化したもう一人の蜻蛉という人物を作り上げ、相手の文章に合わせて返事を書いた。





 今まで通り相手に好まれるように合わせればいいだけ。簡単だ、ずっとやってきた事だ。


 そうして、手紙のやりとりは始まった。









 だけど、思ったようにはいかなかった。返事は難航する事になる。本を勧められた。読んでみた。だけど、彼女の言っているような感情は湧かなかった。


「どこで(感動)したと書くべきか・・・。」


 自分にはおよそ「感動」というものが無かった。



 笑う時も泣く時も全て相手の反応を見つつ行なってきたから、自分に有るのは誰もが持つ三大欲求と自由への野心。それぐらいだった。


 手紙を重ねるうちに、自分の中の偽りの蜻蛉はよりはっきりと偶像化し、その度に薄っぺらい、自分というものがよりぼやけていった。


『なんてつまらない男だ。』


・・・こういう事か。





 手紙のやりとりは続いた。春も、夏も、秋も。

 色々な話をした。



『とうとう夏が終わってしまいましたね。夏は体調を崩すので不得手ですが・・・。何かの節目のように感じてしまって 終わる頃になると何も変われなかったと振り返るのです』



 彼女は感傷的な人だった。長くやりとりをしているとそういう印象を持った。

 繊細、敏感、潔癖、時に偏った所があったが、それもその片鱗に思う。




 すっかり「蜻蛉」という虚像として想像する事が板についてきた。自然な事になっていた。
 だが、想像するという事がこれ程錯覚を起こす事だとは思わなかた。



 これは自分の感情ではない。

 今までどんなに装っても約に引っぱられた事はないのに何故。


 自分は彼女に感化されていたのだ。






「許嫁殿がお付きと共に夏休み(M)の間、我が家に滞在する事になった。」





 どんな人だろう という興味があった。



「お出迎えわざわざどうも。暫くお世話になります とでも言っておくべきかな?」



 驚いた。


 手紙の彼女とは同一人物とは思えない。こちらと同じく代理が書いていたのではないだろうか。確かにこんな子供の書く内容ではない。

 愛想笑い一つできなくても受分愛され守られ成り立つという訳か。


 自分とはあまりに


違う。



 だけどなにより驚いたのは、自分が落胆している事だった。






「許嫁殿がストレス(S)で吐いたらしい。慣れない場所で気を張ったのだろう。元々丈夫な方ではないからな」

「気を・・・?」

「そうは見えんだろうがあれでも一応な。手紙(M)の主があれで幻滅したろうが、まぁ嫌ってやるな」

「・・・!ご本人が書いていらっしゃるのですか・・・?」

「勿論だ。代理を立てるなんて発想もないだろう、要領が悪いからな。許嫁殿は学校では苛められ(M)家でも上手くいってないらしい」


「飼われている(M)ようなもの だという意味では貴様と同じか」






 ふと庭で彼女を見かけた。ひっそりベンチに佇む小さな白い花のような。

 何種類もの便箋を。ペンを。紙を。



「同じじゃない。」



 彼女は自分のような無情な人間ではない。幼くともいろんなものを敏感に感じているのに。


 誰がそれを知っているのだろう。

 誰がそれに気づいているのだろう。

 項垂れた小さな体が自分とあまりに違って・・・。


 痛々しく思った。





 これは



 この感情だけは



 自分だけのものだ









 月日が経った。




 初めて自分の事を書いてみた。

 彼女の目を汚さないようにぼかして書いた。いけない事だという事はよく解っていた。

 そんな何もかもがどうでもいい衝動だった。




 世界には 自分と彼女しか 無かった




 そして返事がきた。



『今まで蜻蛉さんをどこか遠くに感じていました。初めて少し近づけた気がします。』


『初めて本当のあなたが見えた気がする』



 初めて、と言ってくれた。初めて書いた本当の自分に・・・。



「はい・・・。」



 こんなに乏しいものが僕の正体です。


 気づいてくれたんですね。


 ありがとう 貴方に出会って僕も 色々な事に気付きました。



 自分だけの 言葉。


 それを受け入れてくれた貴女。


 だからこれは。






 ただ、誰よりもお側に。



 望む事はそれだけだった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


蜻蛉「どうした双熾?言ってやらん(S)のか?」

凛々蝶「何の事だ」

蜻蛉「“あの”手紙の事だ許嫁殿、あの手紙は私が書いていたのではない」


 立ち尽くす彼女。それが全ての真実。


 凛々蝶さま・・・!





「知っているが。」


・・・・・・!


凛々蝶「君があんな手紙を書くか、僕の目が節穴だとでも?あれは君じゃない。僕が待っていたあの人は、君じゃない。」



 気づいてくれた・・・!!


 全てから救われたような双熾の顔。それを見つめて・・・。


蜻蛉「なんだ つまらんな(S)」

凛々蝶「え」


 いきなり、ドンと凛々蝶を押して中へ。そのまま蜻蛉はエレベーターを閉じる。


凛々蝶「何のつもりだ・・・!」

蜻蛉「怯えてる怯えてる(S)。もう奴に用が無くなったので二人きりになっただけだ」

凛々蝶「僕は君に用はない!」

蜻蛉「まぁそう言うな これを見よ許嫁殿(M)」




凛々蝶「どこから出している!」

蜻蛉「これだ(S)!」





『ごめんね。』


凛々蝶「これは・・・子供の字?」

蜻蛉「汚いだろう(M)?」

凛々蝶「まぁ・・・綺麗とは言い難いな」

「私の字だ。」


 !


「まぁこれが理由だ。許せ。これでも後悔したのだ、おまえ達は勝手に仲良くなるしな。私は私なりに奴に劣等感を抱いていたのだ。奴の欲しいものを私が持っていたようにな。だから奴も謝罪しようとしたが、失敗のようだ。」


「・・・・・・・・。」


「我が許嫁殿は賢い反面突然の出来事には対処しきれないらしい。」


「あの手紙を代筆していたのは双熾だ。ではな、また淋しくなったら邪魔しに来るぞ」


 言うだけ言って彼はその場から出て行ってしまった。そこにはいつもの自信に満ちた気迫ある声とは違い、どこか淋しげな影を残していた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


凛々蝶さまの事は以前から存じ上げておりました。


  ずっとお会いしたいと思っておりました。


    あなた方に凛々蝶さまの何が解っているのですか?


 良かったですね。


  凛々蝶さま






「彼が・・・!」


 そうか、彼だったのか、だからいつも知っていてくれた。


 だから。


「だから いつも気づいてくれたのか」


「君だったのか!」

「凛々蝶さま!」



 繋がる言葉。


 伝わる想い。


 時間を超えて。


 距離を超えて。






 世界には 自分と彼女しか 無かった。




「いいえ・・・。いいえ」


「気づいてくださったのは、貴方です。」




 少なくとも、この瞬間だけは。









 次回、「二人になった日」