亜種特異lll [ 屍山血河舞台 下総国 ] 英霊剣豪七番勝負 【第六節 第二歌 インフェルノ(急) 1-1】
カルデアのマスターの意識は、突如として亜種平行世界へと奪われた。
暗闇と魔性が忍び寄る中世の日本に、殺戮の輩に貶められた七騎の「英霊剣豪」が刃向く――
かつての夢で出会った「宮本武蔵」とともに、赤き月の悪夢を斬り祓え。
悪鬼羅刹の七騎が嘲笑う
──見よ、血染めの月が太陽を食い尽くす
城下町で宮本武蔵を襲撃した後、下総から南に出たアーチャー・インフェルノに段蔵は木の上から声をかけた。
キャスター・リンボの指示通り、インフェルノを差し向けることができたが、結局決着はつかず、それどころかインフェルノは城下町を離れ、一人南に向かって歩き出したのだ。
インフェルノは、道の向かいからこちらに向かってくる灯りに気付いた。
段蔵は耳を疑った。
インフェルノは、民草の殺戮を霊基に埋め込まれた英霊剣豪である。
その殺戮しかできない英霊が、殺戮対象であるべき人の身を案じていたのだ。
声をかけられた男、いや老爺は、インフェルノの顔をよく見ないまま答えた。
隣には老婆もいる。恐らく夫婦だろう。
そうして一礼してインフェルノは老夫婦を見送った。
至って自然の、生前となんら変わらないそのやりとりを見て、段蔵は困惑していた。
彼女の感情は何も変わっていない。その口ぶりは、先程の老夫婦を思いやる言い方と何も変わらない。
それでも、彼女はこれからたくさんの人を殺す、と簡単に言ってのけた。
すぅと閉じた眼から、真っ赤な雫が流れる。
血か、それとも涙か、感情の無い段蔵にはわからない。
彼女の心は壊れている。
段蔵はそう思った。
全てが血と炎と赤い月で染まる。
目の前に広がる死の風景。
忍びである段蔵には、その光景は珍しくは無かったが、中心で炎を振りまくインフェルノを見て彼女は思った。
キャスター・リンボは歌うように言葉を並べた。そして、その光景を見て愉悦に浸っている。
このまま北上すれば、士気城にぶつかる。
そして、式場にはカルデアのマスターと新免武蔵がいる。
翌朝。
アーチャー・インフェルノの襲撃から一夜。
うん、何もないならそれが一番。
小太郎の方はまだ回復が追いついていなかった。そもそもこんな人理のどこに当たるのかもわからない世界にレイシフトしてきた時点で、霊基にはかなりの負担がかかっているんだろう。
無理はしないで。
ありがとう小太郎。一日で持ち直したのも凄いよ。
も、もう一回再臨すれば・・・。
格好いいよ!イモータルカオスブリゲイト。
確かに、昨日より人だかりができている気がする。。。
見に行ってみよう。
これは、怪異の件と何か関係しているのかな?
剣気ってなに・・・?
侍衆の中心、一際地位の高そうな鞍を付けた白い馬の上に、その老侍がいた。
(やばい、柳生ってとこまでしかわかんなかった・・・・・。なんて読むんだ、あれ?)
小太郎はわかる?
あれ?そういえば、その口ぶり。もしかして知り合い?
そう聞くと、武蔵ちゃんは見たこと無いような複雑そうな顔をした。
味見。って言いました?
と、気付いたら、その但馬守が目の前で馬を止め、こちらに声をかけてきた。
え、武蔵ちゃんを知ってる?!
う――――――。
あれ、一瞥されただけで
う、動けない・・・?!
だけって、、、、
武蔵ちゃん、頼む!
こちらが言うより速く、武蔵ちゃんは刀を抜き、一瞬で敵を切り捨てていた。
うん、あの眼光にまっすぐ射抜かれると身がすくむ感じ・・・・。
さすがに飛べないから、なんとかここで迎撃するしかない・・・!
侍すごいな・・・・。
そうだ、英霊剣豪・・・。アーチャー・インフェルノの仕業か
でも彼女は確か、城下町では暴れられないって言っていた。
但馬守の言い方にカチンと来たのか、笑顔のまま武蔵ちゃんが言い返す。
えっと、命令だから拒否権はない。ってやつ。
どうやらこの二人、相性が最悪みたいだ。
確かに侍衆の人達は優秀かもしれないけど、英霊剣豪は普通の英霊でも勝てるかわからないぐらい強いからなぁ・・・。
おぬいちゃん達はおたまさんのところで待っててね。
段蔵というくノ一の出で立ちをした女性がどこからともなく現れた。
段蔵、というと、加藤段蔵?
あれ?小太郎?
というわけで段蔵を加え、一行は城下町を後にして、インフェルノの報告があった南に向かった。