モーレツ宇宙海賊第十話「嵐の砲撃戦」
銀河帝国がその勢力を増大させ、周辺の星々との併合を次々と重ねていた頃、辺境宇宙においても、独自の政権を有する星々が存在した。
鯨座級たう星系海明星は開拓惑星だった。開拓地の多分に漏れず、人口が増え世代を重ね、宗主である星系連合との対立が深まり、ついには独立戦争が勃発した。
海明星の独立政府は、脆弱な戦力を打開するために、宇宙海賊達にあるものを発行した。
「私掠船免状」である。
海賊達は「私掠船免状」を盾に星系連合の宇宙船を襲い、独立戦争の勝利に大きく貢献した。これは、終戦後百年余り後の物語である。
「さぁ!海賊の時間よ!!」
・・・え!?
第10話「嵐の砲撃戦」
独立国家として名高いセレニティ王国。その王家の正統第七皇女プリンセス・グリューエル・セレニティが弁天丸に密航してきた事が事の発端であった。
『黄金の幽霊船』
グリューエルを茉莉香の通う白凰女学院の中等部に編入させ、留学という表向きの形を取り、茉莉香もヨット部の練習公開という事で海明星での偽の活動記録を作る。
その裏では、グリューエルからの王家のデータにあった『黄金の幽霊船』の情報を解析、これがセレニティ王国最初の移民船である事を知る。何世代にも渡って宇宙を彷徨う太古の宇宙船、それを追うべく茉莉香たち弁天丸は秘密裏にグリューエルを乗せて幽霊船捜索に乗り出す。
「オーッホッホッホッホ!!宇宙海賊戦弁天丸船長、キャプテン・マリカ様のお出ましよ〜ん!!」
茉莉香より艶っぽい声で茉莉香を名乗るもう一人の女子高生宇宙海賊。
「静かにおし!それとも、この、マリカ様のぶっとい銃で蜂の巣になりたいかい?」
海賊の営業。それは舟会社からの依頼で豪華客船を襲撃するショーを繰り広げる事。本来なら弁天丸の営業だが、ここにいるのは茉莉香の同級生で同業者のチアキ・クリハラ。そして、彼女の父ケンジョー・クリハラが率いる海賊船バルバルーサ。
「さぁ!金品財宝貢物を差し出しなサーイ!オーッホッホッホッホッホ!!!」
それにしてもチアキちゃん、ノリノリである。
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グリューエルは海明星、茉莉香たち弁天丸は銀河帝国内で営業中。秘密裏に事を進めたい以上、グリューエルや茉莉香の消息を誤魔化すとして、弁天丸の営業は誤魔化せない。そこで弁天丸の代行として同業者のバルバルーサに頼んで女子高生宇宙海賊を代わりにチアキちゃんが営業をしていると。
ダストは濃いし、重力波は荒いし、最大出力のレーダー範囲も極わずか。一寸先しか見えない暗雲立ち込める雲行きをイライラしながら航法士のルカは操作する。『黄金の幽霊船』の目撃情報は少ない。それは宇宙船がやすやすと飛べる空間を敢えて航路にしているからであり、そんな宇宙船を追う以上、こちらも難所を飛び回らなければならない。
小さい星屑が船体にバチバチ当たってのがいかにもな演出です。これだけで船の装甲は痛むので、好き好んで飛ぶ船はいないんでしょうね。
普通の船のレーダー機能では限界があるため、回りが見えない中での宇宙航海ですが、グリューエルは必要な時、幽霊船は必ず現れると意味深な事を・・・。
「そろそろ時間だ。」
「はいじゃあ二人ともお疲れ様。」
「え?何なの?」
「未成年の就業時間はおしまい。二人ともとっとと食事をしてお休みなさい。白凰女学院の校則にもあるのよ、当学院生徒の副業並びにバイトにおける就業は8時間・・・って。」
海賊も福利厚生がしっかりしてるんですねぇ。これで船長って儲かる商売なのかな?
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「いただきます!」
自分だけ途中で抜けるのは若干不満気な茉莉香ですが、割り切りがいい子なので、そこは大人と子供の線引きをしっかり理解して素直に食堂へ行きます。
しかし、グリューエルは自分が言い出した事で色々迷惑をかけてしまっているのに、自分だけ休むわけにはいかない。と責任を感じているのか、あまり元気がありません。
「心苦しい?」
「はい・・・。」
「確かにねぇ・・・。私も、船長だっていうけど結局大人のみんなに守られてる。皇女様も同じかぁ・・・。あぁ!同じだなんて言ってごめんね!」
海賊の責任。皇女の責任。海賊の覚悟。皇女の覚悟。
「いえ、嬉しいです。私と同じと言ってくれる方がいる。それがとても嬉しい!」
特別な境遇にあるのはどちらも同じ。グリューエルは生まれた時から背負ってきたものもありますが、茉莉香はこの道に自分で決めて自分で乗り込んだ覚悟がありますからね。その分ではグリューエルより肝が座っています。そんな茉莉香を見て、グリューエルは自分と同じ立場で話してくれる茉莉香は大切な友だちなんでしょうね・・・。そういえば友だちと言えば・・・
「・・・チアキちゃん。今何やってるかなぁ・・・・。」
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「っくしょい!!―――――ち、違う!!断じてノリノリじゃない・・・!!」
人類が宇宙に出ても、海賊が宇宙に行っても、噂話にくしゃみは出ます。何だかんだで断れないチアキちゃん、そして前回の話でグリューエルに挨拶する時もそうでしたが、どんなことでもやる時は真面目に、真剣に。器用な茉莉香と違ってそういう部分はある意味不器用ですねぇ。まぁそれがチアキちゃんの良さですけど。
「この辺、少しいじろうかな・・・」
頑張れ新米女子高生海賊。
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「おはよー!」
寝ても覚めても嵐の中。寝起きにブリッジに出てきた茉莉香は長期戦オールナイトモードのクーリエを見つけます。太陽やら月やらがない宇宙空間では、銀河標準時間によってみんな活動します。たぶん今は朝の時間帯。なのでパンをかじりながらクーリエがレーダー系からの電子解析をやってました。ケインたちは休憩、弁天丸は自動運転です。まぁクーリエのデスクはいつも生活臭漂いますが(笑)
クーリエの解析によれば、この近辺地帯にはセレニティ王家の調査団が残したブイ(解析端末)がかなりの数散らばっていて、精度の高い解析ネットワークがデータ収集を行なっているとの事。もちろん、王家の認証等が必要なので、利用するためにグリューエルのデータを試しに入れてみるとこれがあっさり認証。最後の調査団の記録は15年前なので、13歳のグリューエルのデータは無いハズ。それでもグリューエルの生態データで認証ができたという事は、王家だけにある何か特別な生態データでもあるんでしょうか。王家の独立にも関わる何かという事らしいですが、声を震わせながら何かに怯えるグリューエルを見て、茉莉香は話を戻します。
「で?使えるネットワークはどうだって?幽霊船についてのデータは?」
「これまでに比べれば格段の差、こんなにはっきり」
「うわぁ・・・。」
セレニティの解析ネットワークを利用してレーダーを広範囲にした事で、周辺の空間がだいぶ鮮明になりました。そして、その空間に不信な戦艦クラスの宇宙船を複数確認。もちろん狙いは茉莉香たちと同じ黄金の幽霊船でしょう。そしてその話を聞いたグリューエルは黙って考え込みます。グリューエルは王国の情勢をどこまで知っているのでしょうか。前回出てきたヨートフの話も気になりますしね。
しかし、そんな時ブリッジに警報が鳴り響きます。急いで集まるブリッジクルー。6光年先で大きい空間異常。巨大な物体が突如(恐らくワープとか索敵範囲内にいきなり現れたとかで)出現したという事ですね。何とは言いませんが。
もちろんこんな宇宙船が飛びそうに無い空間に、お探しの幽霊船クラスの反応。追わない理由はありません、さきほどの艦隊の影も気にしつつ・・・。
「超高速跳躍準備・・・!幽霊船、追っかけるわよ!!」
即断即決、船長の一声で弁天丸は目標に向かいます。
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「しっかしまぁ、よくもこんな荒れた空間に無事降りられたな。」
「無事じゃねぇから警報なってんだろうが!」
船体正面で融合爆発。ワープする際にはワープ先に何も障害物が無い事が条件。もしワープ先の座標に物体があると、ワープ直後にその物体と同座標なら重なってしまいます。つまり同じ座標軸に突然別の物体があらわれる事になります。この作品では融合爆発。つまり重なった部分が激しい摩擦を起こし爆発を起こす現象になっているようです。船体表面で起こったのでギリギリセーフですが、もし船内で起こっていたら大変な事になっていたのでしょうね。
そうした自体を避けて、超高速跳躍時に先にミサイルを発射して着地地点の障害物を破壊するみたいですが、シュニッツァーの話ではミサイルの着弾点がズレたとの事。
嵐の中を飛び交いながら、目標の物体を追いますが、百眼の解析では空間異常は別の空間で起こっているとかで、空間異常そのものは縮小、目標は高速で移動し追いつくのは無理との事。
気が抜けたのも束の間、なんとか取った移動データとセレニティの観測データを付き合わせて次の予測地点を探っている最中、今度は別のアラームが。
「今度は何が!?」
「やっぱり来たわね・・・」
「別口のエネルギー反応!」
「レーダー反応来ました!」
「全船戦闘体制!!」
今まではただの貧乏調査団と変わらない。ただし、ここからは海賊の時間。船長服に袖を通した茉莉香は、学生の顔から海賊の顔になります。船長としての覚悟、海賊の力。
こちらはあらかじめ予想していた自体なのでレーダーの出力は目一杯。対して向こう側にはまだ気づかれていないハズだが・・・。
「向こうが索敵を開始したら見つかるわね・・・。やり過ごせる?」
「新手のレーダー反応ふたつ目!ごめん、逃げられない。クロスフィールドを確認!」
「クロスフィールド?」
「二方向からレーダーをかけて空間を走査することよ。」
「要するにレーダーの挟み撃ち。」
「デコイ発射する。」
「お願い!」
デコイは小型のミサイルポッドで敵のレーダーにわざと引っかかって船の正確な位置を攪乱する。
「引っ掻き回すようにランダムパターンでコースを設定したが、クロスフィールドを使うような奴らに囮が通用するかな?」
「レーダー反応3つ目!たぶんこれ、あらかじめ艦隊を散開させて通常空間に復帰させてたのね。数の使い方を知ってる相手は手ごわいよ」
「嵐の宇宙。散開している艦隊。一番近い相手は・・・」
ヨット部の練習公開、そして重なるシュミレータでの訓練。ただの女子高生とはいえ、茉莉香のタクティクスは普通のそれ以上なのは、これまでで十分見せつけられてきました。
「2番目!!」
「護衛艦級・・・たぶん2隻。相対速度マイナス、現在向こうが加速して接近中。」
3方向からの同時包囲。しかし、真後ろだけ艦隊の数は他より少ない。数で勝てない相手の罠にわざわざハマっていっても仕方ない。
「わかった・・・。逃げるのやめ!!進路反転!!!」
「りょーーかい!!」
「一番近い2隻に挨拶してから離脱しましょう。」
「どうする?口火はこちらが切らせてもらうか?それとも相手が撃つのを待つか?」
「向こうが撃つかどうかは関係無い。射撃モードは目一杯接近しての拡散放射!フルチャージで!」
「敵艦のセンサーと装甲を傷つけて追いかけられなくする作戦ね、いい判断。さすが加藤船長の血を引く子だわ」
「船長の血・・・。」
血という言葉に反応するグリューエル。彼女の生まれはもちろん王族。父母から受け継いだ血が何よりもそれを証明する。だがそれは王家だって海賊だって変わらない。さっきまで同じに見えた茉莉香とグリューエル。だが、先ほどのほのぼのとした少女と違い、船長として立ち振る舞う茉莉香を見て、グリューエル自身はその違いをただただ感じていた。
「さぁ!いつでも行けるぜ!!」
「弁天丸、行きましょう!!」
自分と彼女もただの女の子。立場が違うだけだと思っていた。でも、そこに背負ったものに対する覚悟だけは違う。それが彼女の力であり、宇宙海賊としての茉莉香の姿であった。
シュニッツァー「対艦戦闘にはあるまじき近距離戦闘になるな。」
クーリエ「電子妨害開始!」
茉莉香「うまくやってよ!」
ケイン「まかせとけ!機関最大出力!ペアの間抜くぞ!!」
三代目「わざわざ自分から従十字砲火に突っ込む真似なんかしなくても・・・。」
茉莉香「突っ込むから・・・勝てるの。」
以前ミーサが言っていた海賊に一番必要なもの、度胸。それが今まさに試されている。
クーリエ「敵艦判別!コーバック級護衛艦、セレニティの船よ。」
グリューエル「そんな!!?」
グリューエルはどうかわからないが、ブリッジの全員はほぼこの自体を予想していただろう。艦隊をわざわざこんな嵐の中においている。ここにある観測ネットワークもセレニティのもの、ならば・・・。
茉莉香「戦闘予定、変更なし!敵が撃たなくてもこっちは撃つわよ!」
シュニッツァー「了解!」
百眼「エネルギー反応増大!!来るぞ!!」
ケイン「あらよっと!!」
うまい具合に船体を傾けて、コーバック級に対して斜めから表面面積を最小限にして接近。弁天丸のような小型船ならではの小回りですね。そのまま放火の間をすり抜け、続けざまにチャージしてきた拡散射撃で敵のセンサー系を狙い撃ちます。そのまま2隻の間をくぐり抜けるように・・・。
「全速で離脱!!!」
最後に攪乱用のチャフをばら蒔いて一目散に包囲網を抜けます。
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「あの。今からでもさきほどの護衛艦と連絡を取れないでしょうか?私が弁天丸に乗っている事さえ知らせれば、セレニティの船なら、私に敵対する事はないハズです。」
さきほどの事もそうですが、なんとか平和的に終わらせたいグリューエルは、茉莉香に進言します。しかし、こうなってしまった以上喧嘩を売られているも同じ。なにより一度、弁天丸に乗っているグリューエルを向こうは知っているハズなのに、問答無用で攻撃してきた。グリューエルが弁天丸に乗っている事にはなっていないとしても。だ。
それはつまり、セレニティ側もグリューエル抜きでの幽霊船探索を行なっているという事。茉莉香がグリューエルの依頼を達成するには、セレニティにここで平和的な態度を示してもなんの意味もありませんね。
「これがもし誤解ならば、次の接触は有効的にいけると思う。でもごめん、弁天丸は海賊船なの。相手がどんな事を考えているかは、色々考えなきゃいけない。」
例えそれが、グリューエルにとって最悪の状況であったとしても。
「本当なら、今のグリューエルは白凰女学院ヨット部の練習航海中。弁天丸も今は他のところで海賊営業中。あなたがこの船に乗っているという事実は、今後の交渉の強いカードになる・・・。だから、我慢して。あなたは・・・・プリンセス・グリューエル・セレニティでしょ」
「・・・わかりました。ありがとう、船長・・・。私は、この船にやってきて良かった。」
決断、判断、交渉、選択。人は時として、最良の決断を迫られる。時として残酷な判断を下す。時として相手を出し抜く交渉を求める。時として運命を決める選択をしなければならない。
宇宙にはその全てがあって、そのどれもが星屑のようにまばらで、煌めいていた。
「船長、この後の進路の指示をお願いします。」
「ふーん。セレニティ艦隊も、大勢で幽霊船を探しているのがわかった以上、無駄な事はやめます。」
「で?どうするの?」
「決まってます!海賊は海賊らしく!」
「セレニティ艦隊を追いかけて、出し抜いて、上前をはねる!!!」
「カッコイイーーーゾクゾク!!」
「グリューエル、いいわね。」
「卑怯ですわね。ですが、卑怯でもなんでも、正当化するのは後でも良いかと。お願いします☆」
「任せて!!じゃあ行くわよみんな!!」
「「「「「了解!!!!!」」」」」
飛び交う星屑。その中で赤い船体はなお輝いて、宇宙を翔ける。黄金の幽霊船を目指して。
次回は時空震、そしてもう一人の皇女、その果てに見える黄金の輝き・・・。
次回、「閃光の彷徨者(ワンダラー)」
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どんどん船長して開花していく茉莉香。それに魅せられるグリューエルとクルーたち。冒険と戦い、そして。
BGMやら、演出やらが本当に精巧で見ていて気持ち良い作品ですね。毎回の終わり方も次回まで待てない気分にさせられてしまいます。
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