モーレツ宇宙海賊第六話「茉莉香、初仕事する」
宇宙に生きるという事は常に決断を要求されるという事でもある。
周囲には空気もなく、足を付ける地面もない宇宙空間では、ふとしたミスが致命的な事態を引き起こす
宇宙船に乗り込めば、人は必ず最良の選択をし続けなければならない。
しかしそれこそが宇宙に生きるという事なのだ。
加藤茉莉香(かとう まりか)は、そうした決断に長けたまさに宇宙の民たる資格を持ち合わせた少女であった。
「私なるよ、船長に・・・宇宙海賊に私、なります!!」
それこそが少女の決断。そして、遥かなる銀河への一歩。猛烈宇宙海賊のはじまり。
とはいえ彼女は花の女子高生。人生においてこれほど充実できるチャンスも少ない夏休みの真っ只中。決断はしたものの、とりあえず海にでもと、マミと一緒に浮き輪を持ってはしゃぐ。が。
黒いスーツの男たちに囲まれる二人。いつぞやの喫茶店にやってきた連中のようだが、そのなかにはミーサ(弁天丸船医)とケイン(弁天丸操舵手)も。
「お迎えにあがりました。」
「え?え?うえぇ〜〜〜!!!!」
ここからは海賊の時間。ミーサたちにポッドで連行され、いきなり書類にサイン。サイン。サイン。判子をぺったん。ぺったん。ぺったん。
私掠船免状(しりゃくせんめんじょう)。それは銀河帝国の領域内で海賊が海賊行為をする事を公式に認められた船にのみ発行される免状。いわゆる海賊免許。これがあれは政府は海賊への執拗な追跡、拘束もなくお咎めもない。
茉莉香の父であり、弁天丸の船長であったゴンザエモン加藤芳郎が死去したために、娘である茉莉香がその船長を受け継ぐ。そして、船長引き継ぎについで私掠船免状も発行を許される。と。
ミーサに連れられ茉莉香は、役所を片っ端から回って色々な手続き。公式の海賊ともなるとやはり色々やっておかなければならないようで。
「細かいところも入れて20は覚悟してね。」
「うへえぇ・・・。」
証明写真を撮り、書類をまとめ、街から街へ。そして。
「これでお前も海賊に・・・か。」
しかし、目的は宇宙の彼方。地上でこうしている分には実感の湧かない話です。家に帰って母梨理香(りりか)にそう話す茉莉香ですが、実は悠長な事も言ってられません。
「そうも言ってられないのよねぇ。私掠船免状の有効期間は50日・・・。その期間内に海賊仕事をしなくちゃ、免状は失効しちゃうの。でもって、こうして新しい免状が発行されたわけだから、弁天丸はさっそく海賊行為をしなくちゃいけない。」
「はぁ・・・。」
「なんとかなるのかい?」
「できるわよねぇ?」
「しなきゃ不味いだろ?」
「あ・・・え・・・と・・・えぇ?」
「行っておいで。」
「えぇーーーー!!?」
と。荷造りもそこそこに宇宙へ。地上から星になる彼女を見つめる。流れに乗るまま、彼女は彼女で宇宙へ。
そしていきなり襲撃、敵船はステルスでこちらを完全包囲。一番近くて敵の配置が薄い場所を狙うも、機関室が損傷、出力低下。そして、撃墜。
まぁそんな感じでシミュレーター失敗。いざ本番になれば命取りになる一つの決断。仮想とはいえハードな戦闘シミュレーションに苦戦する茉莉香。
「うぅ・・・海賊ってこんなに大変なんですかぁ?」
「船長はどんな状況でも笑って判断できるようにならないと。」
「あ、ははは・・・。」
「その苦笑いはいらない。」
というわけで楽しい楽しい夏休みは、茉莉香の海賊見習いとしての講習の時間に。
(百眼)「講習120時間目か。けっこう頑張っているじゃないか、お嬢様は。」
(ケイン)「そりゃ頑張ってくれないとなぁ・・・。」
(シュニッツァー)「最初は状況に流されている印象があったが・・・今現在は自分で色々考えている。感所もいいようだ・・・。」
(ルカ)「とはいえ、もうひと押しふた押し。」
(ミーサ)「んー!そろそろ起爆剤の出番ね。」
「ん?」
(クーリエ)「来たわよ。きばくざい。」
ミーサが待っていたのは、小型の宇宙ポッド。乗り込んでいたのは・・・。
「海賊船バルバルーサ船長、ケンジョー・クリハラの娘、チアキ・クリハラです。特別講習にお招きいただきありがとうございます。」
「チアキちゃ〜〜ん!!」
久しぶりの再会に飛びつく茉莉香。チアキはおもいっきり邪見にしますが、ここのところ大人ばかりの生活だった茉莉香にとって、チアキは信頼できる仲間なんでしょうね。
というわけで色々と切磋琢磨。競い合ってこその成長であり。チアキが来たのも茉莉香と一緒に学ぶ事でお互いを高め合えば。とそういう事でしょうね。
そしてミーサの歴史の授業。
手作りの紙芝居で海賊講座。その昔、茉莉香の住む「海明星(うみのあけほし)」を始めとした植民星の独立戦争。侵略してくる敵の軍に対して植民星軍は、私掠船免状を海賊船に発行。海賊の武力を軍事力として戦争に対抗。そして独立戦争は、外部からやってきた銀河帝国の大艦隊が圧倒的勢力を背景にこの2つの戦争を集結し、帝国に併合。
「おそるべしハンドメイド・・・」
「・・・工作好き?」
戦争は無事終了したが、海賊は残った。今もなお政府公認で活動できる私掠船免状の制度が残り、そして極わずかの海賊が宇宙で活動している。
「星間法の上では、海賊は軍隊に準じて扱われるわ。だから私たちはプロじゃないといけない。当然、海賊を束
ねる船長もね。」
・・・・・・・・・・・・・・
「宇宙船ってほんとぽつんと飛ぶんだね。」
船外活動訓練の最中、弁天丸を遠くで見つめる茉莉香。
「一旦出航すると、他に比べるものがないから。だから、自分で納得するしかないのよ。船の大きさ、行き先、現在位置―――。」
「そうやって、自分の居場所を自分で決めるの・・・。なんかね・・・。ワクワクする。」
「だから海賊になりたい・・・?」
宇宙という舞台は基準が無い。どこが上で、どこが下で、北で、南で、縦で、横なのか。
それを決めるのは今の自分。自分が宇宙をどう見るか、どう捉えるか。だから、一つじゃない星の煌きの中に、無限の光が宿っている。
深くて暗い宇宙。その狭間で、茉莉香は何を見るのか。あるいは、何を見て・・・宇宙にいるのか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うぇ!?本番!?」
というわけで勉強はここまで。ここからは経験と慣れの世界という事で、まずは度胸をつけるべく海賊営業をするとのこと。
狙う獲物は豪華客船のプリンセス・アプリコット号。電子船で船のシステムを掌握、コントロールを完全に奪ったところで客船内に乗り込んで略奪行為、ついでにオプションで船長による剣戟。オプション?
「け、剣戟!?」
「海賊だからね、剣はつきもの。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
というわけで海賊です。
宇宙ものには付き物の惑星星間ワープですが、このアニメの場合は「超高速ドライブ」と云うそうで。豪華客船プリンセス・アプリコット号は本当に貴族が晩餐会を開いている優雅な客船。先に乗り込んだケインは、早速若い女の子二人にちょっかい出してます。
「この船の安全と、宇宙海賊に乾杯。」
「ふふ、そろそろか。」
しばらくすると、船内のスピーカーからノイズと共に茉莉香の声が流れます。
『あ、もうやっちゃったの?いける?え、繋がってるって!あぁ、ごめんなさい!こちら弁天丸、海賊船弁天丸です!』
「これはもしかして・・・」
「わたしたちは運がいいですね。」
なぜか微笑む乗客。海賊が来たというのに茉莉香の調子じゃ笑ってしまうのも仕方がないのかもしれませんが。
『私は弁天丸の船長茉莉香。海賊船の船長、キャプテン・マリカです!』
「受けてる受けてる(笑)」
「海賊に襲われたってのに船長が女の子だからなぁ・・・。こりゃラッキーだろ。」
茉莉香自身はコクピットでマイクをONにして会場内へ演説。台本というか、マニュアルまでちゃんとあります。
『弁天丸はプリンセス・アプリコット号への電子攻撃を完了しました。プリンセス・アプリコット号の航行系を含む全てのシステムは現在弁天丸の支配下にあります。がーっはっはっはっは!!』
「ノリノリじゃない・・・。」
「やってみたい?」
「いえ。いいです。」
『わかりやすくいうと、プリンセス・アプリコット号は、海賊船弁天丸に乗っ取られちゃってマース!』
なぜか湧き上がる会場。その中で何も知らずに戸惑う女の子二人にケインがフォロー。
『弁天丸の主砲は既にプリンセス・アプリコット号のブリッジに狙いをつけちゃってますから、逃げるのも抵抗するのもムダムダムダムダぁ!』
『今から私キャプテン・マリカとその一味がそちらに乗り込みまーす。乗客のみなさんは金目の物を用意してお待ち下さーい!』
そう。海賊行為とは営業。すなわち、エンターテイメント。突然の奇襲というサプライズ。絶滅したと思われていた伝説上の集団に襲われるという一種のファンタジー。人々はその存在に驚き、同時に煌めいた。だからこれはエンターテインメント。乗客からすれば、客船で宇宙を旅する時に遭遇するかもしれないレアなイベントのひとつ。もちろん、実際に船で略奪行為はされるが、あくまでもそれはアクセサリー等の装飾品はちょっとした金目のものに過ぎず、船会社から後で保証されるそうだ。
乗客はそれを承知で船に乗っているため、海賊が来ると会場が沸きあがる。
ケインのそばにはそんな事情を知らない女の子が。
「ほ・・・本物の海賊なの?」
「宇宙海賊船弁天丸。私掠船免状を持っている由緒正しい宇宙海賊。銀河帝国内で営業している海賊なんて、絶滅危惧種ですもんね。お嬢さんたちは運が良い。」
派手な演出と共に会場に現れる茉莉香。なぜかスポットライトまで準備が・・・。
「弁天丸の船長マリカです。海賊しに来ました。よろしくお願いします!」
さらに湧き上がる会場。とここでお約束の銃を上に向けて発砲。
「おとなしくこちらの言う事を聞いてくだされば、お客様の無事な体と、それから海賊に襲われたという滅多にない自慢話を持って、港に帰れます。もし不用意に抵抗するような・・・」
「どうなるのかな・・・!?海賊船長殿に決闘を申し込みたい。」
ここで会場内にきたケインがマリカの前でサーベルを振りかざします。
「どこにでもいるのよねぇ・・・。貴方みたいなかっこつけ」
あくまで初対面を装う二人。これが、ミーサの言っていた剣戟ですね。
シュニッツァー(弁天丸戦闘員)から教えてもらった剣裁きで華麗に観客の前で打ち合う二人。モニター越しで見つめるチアキはまだまだな茉莉香にイライラしているみたいですが(笑)
もちろん実力ではケインの方が上なので、茉莉香の剣は華麗に弾かれ、地面にスパンと刺さります。しかし、マリカは右手に隠していた短銃でケインの心臓を狙い撃ちます。もちろん、これは演出によるダミーで、「む、無念〜〜」という急に大根じみた芝居でケインは倒れます。
「他に文句のある人はいるかしら?なければ素直に言う事を聞きなさい・・・。金目の物を寄こしな!!!」
以上で営業は終了。これが海賊。そして、宇宙。
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講習も一通り終わったところでチアキも弁天丸を離れます。
茉莉香の事は満更でもないようですが、やはり苦手なタイプなようでチアキは邪見にしがちですね。そんな様子を見てからかうケイン。
かくして海賊として二人はそれぞれの道へと歩み出した。
「ぽつんと飛んでるか・・・。だけど、宇宙は・・・一人じゃない。」
モーレツ宇宙海賊第6話「茉莉香、初仕事する」。
次回は本当に敵襲!?海賊のさらなる仕事第7話「平穏ままならず」
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毎回言ってますが世界観の緻密さだけでにやにやできますねー。過去の大戦から現在の生い立ち、海賊という仕事の立場、その意味。一見して一括なストーリーも見方を変えるだけで何倍も面白くなりますね。弁天丸に乗り込んでまた個性的な乗組員も出てきましたし、次回も楽しみです。
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