【FGO】幕間の物語~牛若丸~「無償の愛などなく」
源義経。
幼名を牛若丸。
かの織田信長と肩を並べるほど、日本においてその名を知らない者はいないと言われる名武将。
天賦の才を持ったカリスマ性と、数々の功績によって歴史に名を残す彼、、、いや彼女は、カルデアにライダーのサーヴァントとして召喚された。
幼くして親元を離され、天狗が住むという鞍馬山で幼生を過ごした彼女は「愛」を知らない。
故に、彼女とって他人とのコミュニケーションは戦場であり、そして彼女が唯一できることは、戦場で成果を上げること。
まだ、人理修復が達成される前のある日のこと。
目が覚めたら浜辺にいた。
横には、自分と同じように今起きたばかりと思われる牛若丸がいた。(サーヴァントは本来寝ないはずだが・・・)
・・・・・相変わらず際どい格好をしている・・・。
こうした事故は初めてじゃない。
もともと別の場所にレイシフトする予定が、何かのトラブルでここに不時着したらしい。
うん、それでいこう。
浜辺自体には特に何も無さそうだが、少し歩くと鬱蒼とした森林があった。
牛若丸は誰より早く気配を察知し、その身をかがめて刀に手を置いた。
よし、そうしよう。
先手必勝。こういう戦闘になると冷静かつ適切な戦略を提案してくれる牛若丸は頼もしい。
限りなく姿勢を低くしつつも、一切音を立てずに高速で木々の間を抜け、気配のする方へ牛若丸が跳んだ。
遭遇したのは、数体のラミアだった。無論、牛若丸があっさり倒してみせた。
マシュが若干引いている。今後もしかしたら、そういうときが来るかも知れない、と思ったのだろう。
自分の?どうして?
若干、バツが悪そうに彼女が言う。その様子から、何気ない会話を振ったというよりは、興味本心があったように思えた。
なるほどそうか、それなら・・・・。
カルデアに来たときの話、牛若丸に出会う前の話、カルデアに来る前の話・・・・。
とにかく、いろいろ話した。
一瞬、間があった。それは彼女がその言葉を聞くべきかどうかを躊躇ったからだろう。
もちろん。言うまでもない。
牛若丸の逸話なら色々とカルデアのライブラリで見たことがある。
戦場から敵将の生首を持ち帰り、嬉しそうに部下たちに見せつけて回った、とか。
だが、牛若丸の兄・頼朝は牛若丸の奇行が国を脅かす存在になると思い、牛若丸討伐を部下に命じさせた。
史実では、頼朝の命によって牛若丸はその命を断たれている。
いいよ。どんどん話して。
こうして会話をしていると普通に節度のある、礼節な人間であることがわかる。
だから、きっと何か誤解があったのだろう。
え゛
沖を見ると一隻の洋船が浮かんでいる。オケアノスでよく見たタイプの船だ。
浜辺から沖まではだいぶ距離がある。それこそ、空を飛ばない限りはあんなところまでたどり着けない。
それは、彼女の宝具による跳躍力の超強化。
壇之浦の戦いにおいて船から船へと飛び移り八艘彼方へ去った逸話である。
確かに時間がかかっている。苦戦しているかはわからないが、信じて待つ。
マシュが小舟から甲板に飛び乗った。
甲板には一面、骸骨兵の群れが牛若丸を取り囲んでいるようだ。
浜辺からでは戦場の様子は詳しく見えないが、マシュが加勢したことで戦局が変わったらしい。
元気いっぱいの牛若丸の掛け声と共に、敵性反応が消滅していくのが確認できた。
甲板から身を乗り出して牛若丸がこちらに声をかけてきた。
手を振ってグッジョブのポーズをとる。
敵性反応が再び増加した。反応自体も変化したから、敵に何か変化があったのだろう。
ただ、その反応も牛若丸の宝具名の後には全て消滅した。
一瞬躊躇う彼女。しかし、明らかに何かを伝えようとしている。
なんだ、そんなことかと思い、彼女の頭をゆっくり撫でた。
自分にもあまりこういう経験が無いからけっこうぎこちないかもだけど。
いかに効率よく、最適に敵将の首をとるか。
戦場で成果を上げれば、唯一の肉親である兄・頼朝に褒めてもらえる。
それだけが彼女の全てだった。
無償の愛などない。
彼女には、戦場が全てだった。