とある廃墟
理想は無い。あるのは妥協だけだ。
思想は無い。ただ言われた仕事をこなすだけだ。
救済は無い。善も悪もどうでもいい。
体は剣で出来ていた。
今はただの機械だ。引き金を弾く銃と変わらない。
体は錆付き、思考はただ効率的に対象を破壊することにのみ動く。
それゆえ、昨日の記憶も定かではない。明日の我が身も知る術もない。
遊びは無い。同情もない。
殺戮を執行し、ただ処理するだけ。
かつてダレカが言った。
「正義の味方は期間限定なんだ」と。
ならば、この身は一体いつからいつまで、正義を成したというのだろうか。
ならば、この手で今撃ち抜いた弾丸は何のために放たれたのか。
かつてダレカに言った。
「私をどうかよろしく」と。
その女性は涙を堪えて頷いてくれた。
英雄だったこの体は、秩序の元に悪を成す。
こどもがいた。父親は殺戮ウイルスを作った科学者だった。
停止させるため、●●●を殺した。その隙に父親も殺した。
40人ほどの小さな集落があった。既に全員ウイルスに感染していた。
抗体薬は無い。だから●●殺した。
ウイルスの生成プログラムがとある病院に流出した。
だから病院を●●し、●●殺した。
世界のバランスを保つために、無益な人々を殺し尽くした。
もはや自分の意志などどこにもない。世界に都合の良い壊れた掃除屋。
それでも、守れる命があるのならと。
それでも、救える笑顔があるのならと。
この身は、錆びた剣を弾丸に変えて、今日一日の記憶を辿る。
一人も、例外なく、生かしてはおけない
二度と、同じケースを起こさせない
あらゆる悪の痕跡を消す
後に続く悲劇の可能性を潰す
オレはそうやって生まれたものだ
その為に、その為に―――