亜種特異点点lll [ 屍山血河舞台 下総国 ] 英霊剣豪七番勝負 【第一節 第一歌 プルガトリオ(序)1-1】
その男は、剣豪と呼ぶには余りにも華奢な体躯をしていた。
侍には珍しい美麗な容姿、だが、男はその生涯を山に閉じ籠もって過ごした。
その剣筋は、数多の剣士を凌駕する閃きを放ち、その剣撃はどんな素早い動きも捕らえた。
それでも、男は何の役目を持つこともなく、ただただ、己を鍛える事だけに生涯を尽くした。
その男は、剣豪と呼ぶには余りにも剣豪らしくない侍だった。
鍛えて鍛えて、その先に何があるのか。
最優を目指したわけでも、最強を目指したわけでもない。
そう、きっかけは何だったか。
確か―――――。あのどこまでも自由に飛ぶ燕を、捉えたいと。
そんなちょっとした気まぐれからだった。
気づいたら、中世の日本にいて、武蔵ちゃんと再会した。
これがあらすじの全てであるから大したもんだ。
監獄塔での出来事にも似ているし、前に武蔵ちゃんと会った時もそういえばそんな感じだった。
眼鏡掛けた人形師・・・?
あれ、確か式もそんな状態だったような・・・。
そうかな?でも今回が初めてじゃないしなぁ・・・。
あれ、武蔵ちゃんも来たばかり?
じゃあ迷子の似たもの同士・・・?
よろしくでござるよ。
というわけで、まずは手がかりを探しに人のいる場所を探して、しばし歩いた。
大丈夫、アメリカ大陸だって横断する勢いである致し、鬼ヶ島の峠道に比べれば・・・。
そういえば、青空だと元気なんだね、武蔵ちゃんは。
田んぼの向こうにいたのは、小さい赤ちゃんを背負った女の子だった。
髪型や格好からやはり中世の日本のようだ。何時代かまではわからないけど・・・。
てんしょん上がるわー。と言わんばかりに照れる武蔵ちゃん。
うんうん。
よーし、よーし田助君。
とりあえず、怖がらせちゃいけないと思って、人生初、赤ちゃんをあやしてみた。
てことは江戸時代か。何百年かあるから範囲が広いよね。。
(やばい日本人だけど全然わからん。)
なるほどそれか(なるほどわからん)
ごめん、合ってるかどうかもわかんない。
武蔵ちゃん、、、、もしかして物凄く運がない?
へんな着物・・・って俺か。そうだよね、へんな着物に見えるよね。。。。
武蔵ちゃんが何かを感じ取ったその直後、辺りの風景が一変した。
青空は突然黒く染まり、一気に夜になったかのように周囲は暗くなった。
それに、気温も一気に下がったのか、肌寒さを感じる。
急に天気が・・・。
変な着物やめて。
泣き出す田助をあやすぬい。これは、たぶん――――魔力の反応。
何も無いところから突如影になった何かが湧き出た。苦しく呻くような声を上げている。
黒い影はこちらをじっと見つめている。明らかに敵意を持っているのは経験からわかる。
武蔵守、力を貸して欲しい。
ぬいと田助を背中で隠して、武蔵に呼びかけた。
こっちは大丈夫。一緒に戦おう、援護はできる。
影は形となり、亡霊となり、襲い掛かってくる。
敵はアサシンタイプのエネミーならば、キャスタータイプを召喚すれば、、、、、、、、、、ってダメだ。カルデアからの召喚術式が動かない。
戦闘時はいつもなら、カルデアからの限定召喚でサーヴァント達に手伝ってもらうのに、ああもう、孔明もマーリンもイリヤも三蔵ちゃんも呼べないなんて!
しかし、こちらの援護などお構いなしとdめお言うかのように、武蔵ちゃんは敵を一刀両断切り伏せていった。
彼女の背負う仁王の虚像。
二天一流の使い手と言われるだけあって、亡霊相手にも圧倒的な強さであっという間にねじ伏せた。
最後に現れた黒武者を倒すと、夜になった世界が再び昼間の明るさを取り戻した。
空模様と悪霊達が連動してるのか。
山賊、というかもうあれは、、、、、。
歩く道中、少しずつ事態の異常さを感じ始めつつあった。
というのも。
再び空が暗く曇る。悪天候なんかじゃない。あくまでこれは任意的な事象に過ぎない。
もりもり悪霊が出てくる江戸時代って!
言ってるそばから亡霊たちが姿を現す。またぬいと田助を後ろに隠す。
ごめん、武蔵ちゃん!連戦だ。
サーヴァントがちゃんと召喚できれば、いいんだけど。。。
え
反射的に頭を下げてその場に伏せた。
頭の上を何かが通った感触がある。
風を切る音、刃が交じる音、そして、倒れて消える亡霊。
振り返ると、いつの間にかそこに一人の男が立っていた。